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――5つの銀行に預けてある預貯金はすべて優子のものとし、
――それ以外の有価証券ほか、土地を除いた残りの財産はきっちり折半。
――国内外に所有する土地建物については、世田谷の自宅を除き、
――すべて優子へと譲渡する。
「もちろん、今家にある優子が欲しいと思うものは、好きに持っていって貰っ
て構わないから……」
まるで、お菓子でも分け合うように、
武井がすっきりとした顔でそう言った。
そこは岡島の勤める弁護士事務所で、
優子との離婚条件に決着を付けるため、病院から直接やって来たのだ。
彼は提示内容に驚いている岡島の前で、
内ポケットから書類のようなものを引っ張り出した。
それは、片側だけが書き込まれ、
あとは優子が署名すればいい状態にある離婚届。
そんなものを差し出した後すぐ、
看護師に支えられながら事務所を後にするのだった。
「彼、最後になんと言っていたと思います? 」
岡島が窓から遥か下の方を見つめて、
見える筈もない武井の姿を探しながらそう言った。
「なんて、言ってたんですか? 」
「幸せになってくれと、あなたに伝えて欲しいって……」
「そうですか……幸せに……ですか……」
複雑な表情でそう応えていたのは、やはり窓際に立つ優子であった。
「しかし、ここまで折れてくるとは、なんとも凄い……これなら、充分お釣り
が出ますよ」
「本当に、ありがとうございます 」
岡島に続き、優子がそう言って振り向いた先に、
窓の方を向いて、しかし空を見上げている女がいた。
女は優子に礼を言われて、少しだけ恥ずかしそうに下を向き、
それからフッと息を吐いた。
そしてゆっくりと足を一歩踏み出し、
「彼、今頃どの辺かしら? 」
と呟いてから、2人と同じ方へと視線を向ける。
「ちょうど、1階くらいかな? きっとエントランスを出たくらいじゃないで
すか? 」
「でも、まだまだ先があったのに、これで終わりなんてあまりに呆気なく
て……彼、まさかわたしと結婚なんてこと、考えてたわけじゃないわよ
ね? 」
「さあ、それはどうなんだろう……今の段階で、そこまでは考えていないでし
ょう? そう簡単に、結婚なんて……いくらなんでも、そこまでは……」
岡島の戸惑ったような声に、女は急に戯けたような表情を見せる。
それからさらに窓際に近付き、
大きく吸い込んだ息をゆっくりと吐き出しながら、
「でもね、本当にあっという間だったわ……笑っちゃうくらいにね……」
遠く地上を見下ろし、
岡島と優子の間に立って、
山瀬美咲が......独り言のようにそう呟いた。
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