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目が覚めてカーテンを開けると世界は真っ白になっていた。
僕の真っ黒な気持ちなんてまるで無視するかのように銀色に輝いている。
何もかもを吐き出したくて、部屋を飛び出した。
呼吸を繰り返すたび口から白い息が吐きだされていく。
真っ白に閉じ込められた公園の遊歩道は人の歩いた跡だけが一筋続いている。
バサっと音を立てたのは木から落ちてきた雪だろう。白い煙が漂う。
静けさに包まれた早朝は時間のたち方さえ優しく見える。
冷え切り凍っている雪上を、ゆっくりとしたスピードで走っていく。まるで自分だけが取り残されたように誰もいない世界に、僕の足音だけが響いている。
まだ薄暗く、高い建物の間から昇る手前の太陽が力一杯輝いて来ようとしているのが見えた。淡い青が広がっていく。
昨日は散々な一日だった。
クタクタになるまで働いて帰った家で待っていたのは恋人からの別れの手紙だった。たった一枚の紙きれごときで、今までの日々が清算されてしまう。
構ってくれないのが悪いなんて、子供のような言い分に嫌気がさした。
だけど長い付き合いのあの子を思うと胸にぽっかりと穴が開く。ちゃんと好きだったのに。
さみしさがひしひしと染み込んできて、ベッドを濡らした。
楽しかった思い出も、大切だった気持ちも全部、捨てられてしまったよう。
毎日クタクタになるまで働いて、ひとりぼっちになって、自分の価値なんて何もないように感じても、こうやって走っていると生きていることを実感する。
苦しくなる呼吸、張ってくる足の筋肉。腕を振ると前へと進もうとする体。口から出ていく白い煙が命の証のように見える。
ざくざくとしばれた音を立てる足音は一定のリズムを刻む。僕だけが奏でられる音。
六花が空から落ちてきて肩の上に留まる。はなびらのような冷たさは頬に留まってすぐに体温で溶けて流れた。
その水は昨日流した涙の冷たさとはまるで違った。清らかで美しい。
(生きてるんだな)
どこの誰に必要とされなくても、僕は、今生きている。
踏みしめる足の先から伝わる力強さに背中を押してもらえるようだった。
顔をのぞかせた太陽は世界を橙に染め僕を眩しく照らした。
大きく揺らめくエネルギーが瞳の虹彩に焼け付いていく。瞬きをしても瞼の裏に焼き付いていくつもの太陽を見せた。力がわいてくる。
空からは絶え間なく雪が降っている。
いつか世界が白に包まれても僕は前へと進んでいく。
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