庇護欲と承認欲

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庇護欲と承認欲

……までは良かったんだが……。 「何じゃこりゃぁあああ!!!!」 俺は洗面台鏡の前で自身の顔に奇声を上げることになった。 「何だいうるさいな~。」 「お前、これどういうことだよ!!」 「……ん?」 面倒臭そうに起きてきた百目鬼に食いつくと、百目鬼はぽかんと俺を見おろした。 「すっとぼけんな!!俺の目元のこれだよ!!昨日まではなかったぞ!!」 「あぁ!今気が付いたのかい?ハハハ、良く似合ってる。」 「似合う似合わないじゃねぇ!こんな状態で登校できねぇだろうが!!」 俺の視界に映る鏡の中の俺には目元にピエロのように真っ赤な化粧が施されていたのだ。 擦ってみても、落ちるどころかいつもの肌と全く感触が変わらないのだ。 「そのことか!なら心配はいらないよ。」 百目鬼は俺のスマホを手に取ると、パシャリとシャッター音を立てた。 「何してんだよ。」 「ほら、何も映ってない。」 「あ?」 「これは僕との契約の証。悪鬼や悪鬼に喰われたものしか見ることは出来ない紋様なんだ。」 「お前そんなこと一言も言わなかったじゃないか!!」 「まさか契約に何も害がないと思ってたのかい?契約は“利害の一致”だ。文字通り……君にも利益の分、害だってあるのさ。」 百目鬼の説明に半分不満を抱きつつも、遅れるわけにもいかないからいつも通り登校した。 「それより、どうするんだい?昨日の。」 「まずは水際の確執ってやつをつつくしかないだろ。」 「お手伝いでもしましょうかぁ?」 「断る。」 俺は早速昼休みを使って水際を俺の席の前に呼び寄せた。 とりあえずはこいつの抱えてるものを引っ張り出そう。 百目鬼は屋上の隣の席で嫌をんで音楽を聴いて眠っている体制をとらせた。 水際は俺の姿を見るなり膝をついて頭を垂れた。 「お疲れ様です。」 「おう。お前に聞きたいことがあるんだ。」 「何でしょうか?」 「お前の兄貴は元気か?」 「……え?」 俺は水際の微かな視線の機微を見て昨日の百目鬼の一言から出た疑惑を確信した。 水際の家の確執ってのは本当だったんだ。 「お前の兄貴には世話になったんだ。」 「そうですか。」 「お前も兄貴に少しでも似れば成績も完璧だろうに。」 俺の一言一言に水際の額の血管が浮き出てくるのが分かった。 「とんでもありません。僕なんて……。」 水際の視線がうつむいた隙に目を見開くと、水際の肩にまとわりついた黒煙は既に形もはっきりしてきていた。 「まぁ、お前が兄貴に勝てるわけもないか。」 俺の最後の言葉にクラスがドッと笑いに包まれる。 数日前まではこの反応に快感を覚えていたのが、今は吐くほど薄気味が悪い。 水際はニヤッと作り笑いを浮かべたが、頬が引き攣り眉間にしわが寄っている。 確実に地雷は踏めたか……。
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