のりことだんまりお客6

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のりことだんまりお客6

 ナンシーおばさん(彼女がそう呼べと言うので、のりこはそうしている)が本当はなにものなのか、のりこは知らない。このあやしの旅館に泊まっているのだから、ただの金持ち客ではないだろうけど、少女はその正体をまだ教えてもらっていないのだ。 「あたしが何者なのか、おわかれのときまでに当ててちょうだい」  とおばさん本人に言われているが、今のところまだなにも手がかりはつかめていない。 「ミス・オミワ!昨日のエビのフライはサイコーだったわ!今日もオネガイネ!」 「はいな。また、ようけ用意しときますわ」  きのう、ナンシーおばさんは一人で海老の天ぷらを230尾も食べたのだ。見ているだけで少女は胸やけしそうだった。 (なにものかしら?ポルコさまのお友だち?)  体形と食欲はあのスペインの豚の神さまと同じような感じだけどなぁ。 (――まあ、いいか。まだとうぶん滞在なさるっておっしゃってるから、そのうちわかるでしょ。それよりも……)  のりこは二階からおりてきた番頭に、自分たちが見た光景を報告した。すると 「……そうですか。まあ、そんなところでしょうね」  番頭の、おどろきのない言い方に 「なに?あなた、あのだんま……お客さまが、あんな毛玉を追いかけてるってわかってたの?」  のりこが問うと 「毛玉……だとは知りませんでしたが、あのお客さまのようすを見れば、さがしものをなさっているのはあきらかでした。いわば『自分さがし』ですね」 「自分さがし?なにそれ?あの人、人生にまよってんの?」  少女の無邪気な言いぐさに、番頭は口のはしを悪魔らしく笑みまげて 「フフ。まよっているといえば、まさしくそうでしょう。……しかし、そうなるとこちらでも用意をしておいた方がよいかもしれませんね」  自分にしかわからない言い方をすると帳場の奥に引っこんで、なにやら探している。 「――ああ、これこれ。ありました」  と持ってきたのは「月の雹(ひょう)」と書かれた箱だった。 「なにそれ?」 「ワインです。以前ご宿泊いただいたお客さまからおみやげにいただいた高級品です。なにか特別なときにと思って置いておきましたが、役立つときが来ましたね」ea1cac25-f627-4a6d-899b-a0676129712f 「どういうこと?あのお客さまが毛玉をつかまえたとき用の祝いのお酒ってこと?でも、とてもじゃないけどつかまえられそうじゃなかったよ」 「いえ、役に立ちますよ。フフフフフ」  けげんな気持ちでのりこがいると、しばらくしてだんまりさんがやっぱり手ぶらで帰ってきた。服も泥だらけ、ごみだらけといういかにもしょぼくれた雰囲気で、成果が上がらなかったのは聞かなくとも分かった。
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