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はじめまして
私の名前は村川絵美。割と普通の学校に通う高校生。クラスでは目立たないようにしてるつもりだけど、転校が多かったからか同級生より人間関係の機微には敏感で、お人好しなのもあってなんだかんだ人気者になってしまう。
例えば校庭に迷い犬が現れて騒ぎになってしまったとき、逃げ回る犬と追い出そうとする教師との攻防戦がサッカーの試合みたいに安全な校舎内から見下ろされていた頃、ドサクサに紛れて意味不明なことを言い出す担任教師を私は説得していた。
「エミリー、こういうときって非常ベルボタンを押すべきじゃない?」
「何言ってるの。そんなことしたら騒ぎが大きくなるでしょ」
彼女の名前はヨウちゃん先生。エミリーは私の愛称だ。
「騒ぎが大きくなったら助けに来てくれる人がいるよ」
「いないよ。迷惑だよ」
「あの子もきっと私の授業を受けたいのね」
ヨウちゃん先生は不思議な人だ。冗談でこういうことを言っているのかと思われがちだが、けっこう本気で常軌を逸したことを実行する人だ。どういうわけか学校をクビにならない。学校のみんなはヨウちゃん先生の恐ろしさを熟知していて、相手にできるのはエミリーだけだと褒めてくれる。
人から頼りにされるのは嬉しい。卒業すれば私たちは学校を離れていくけれど、きっとヨウちゃん先生の居場所は学校にしかない。私は彼女も含めてみんなの学校生活が綺麗な思い出になればいいなと思っている。
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