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あのときの犬
ヨウちゃん先生より先に下校する人はいない。そりゃあ生徒たちよりも先生の方が終わらせなければならない仕事があるから遅くまで学校に残っているだろう。しかし生徒たちの証言によると部活動などで帰りが遅くなると必ずヨウちゃん先生が現れて小言を言い出すそうだ。親御さんが心配するから早く帰りなさいと。
「あの人より先に帰る先生はいないと思うよ」
「校長や教頭よりも?」
ああ。そう言って生物教師オーモリは遠い目をした。彼はヨウちゃん先生がハカセと呼ぶので生徒たちからもハカセと呼ばれている。白衣の似合う人だ。
教師たちのほとんどはヨウちゃん先生について多くを語らない。同期のオーモリでさえも余所余所しい。何かを知っているのに隠しているように見えた。
校舎の隅に犬小屋が建てられ、先日の犬が飼われ始めた。なんと飼い主はヨウちゃん先生なのだそう。それから生徒たちが遅くまで学校にいるとヨウちゃん先生が犬を連れて現れると噂された。
「まるで学校に住んでるみたい」
「居心地がいいんだと思うよ。そもそも犬は自分の家で飼うものであって学校で飼育するものではない」
「それってつまり」
「学校側としては認めたくないから曖昧にしている」
教師ではなく獣医になりたかったオーモリは犬の健康を気にかけて夕方に犬小屋を見回っている。ヨウちゃん先生は意外とちゃんと飼育しているようだが色々と不安とのこと。
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