醜石美月

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女性の部屋に、多くの家来と一人の薄汚れた男がいた。 男は旅の商人だという。 女性は目をひそめた。 男が、大事そうに抱えているのが、石食鳥だったからである。 「この子は、おとなしいから。心配しなくていい」 女性の言いたいのはそういうことではなかった。 けれど、今優先するべきなのは、この醜い鳥ではない。 「して、白銀月鳥の卵を持ってきたというのは、本当か」 女性は、逸る気持ちを抑えて訊ねた。 あまりがっつきすぎると、足元を見られる。 態度だけは、堂々としておく必要があった。 「はい。ここに」 男が、懐から石のように灰色の卵を取り出した。 女性の護衛のためについてきていた家来たちが、ざわつく。 白銀月鳥の華やかな見た目に反して、卵はかなり地味だった。 男は、周りの反応など気にもしていない様子で、無造作に卵にひびを入れ、あらかじめ用意されていた碗の中に割り入れた。 「貴様!これは石食鳥の卵ではないか!」 灰色の卵黄と、灰色の白身。 それは、食した者をそのまずさで、ぶちゃいくにすると評判の石食鳥の卵だった。 女性は激怒した。 なによりも美を求める女性にとって、石食鳥の卵は、目にもしたくないものだった。 「いかにも。その通りです」 男が、さっと手を挙げた。 窓の外から、光が入ってくる。 空の雲がはれ、満月がその身をさらけ出したのだ。 「石食鳥と白銀月鳥は、同じ鳥なのです」 男の抱いていた石食鳥が、満月の光に照らされ、美しい白銀月鳥へと姿を変える。 白銀月鳥は、一度、光の粒子に体を変えると、そのまま夜空へと飛んで行った。 「食べてみなさい。それは、まぎれもなく白銀月鳥の卵だ」 碗の中の卵も、先ほどの白銀月鳥と同じように満月の光に照らされ、神々しく輝いていた。 女性は、魅了されたかのように、碗に手をかける。 そして、輝くその卵を。 一気に飲み干した。 「ぶっちゃいく!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 女性の顔が、ぶちゃいくになった。 「言ったでしょう。石食鳥と白銀月鳥は同じものだと。  外見が変わったからと言って、その本質が変わることはないのですよ」 男が、おかしそうに笑って言った。 いくらきれいに輝いていたところで、元は石食鳥の卵である。 飲み干せば、ぶちゃいくになるのは明白だった。 むしろ、外見とのギャップで、そのまずさは1.5倍増しとさえいえる。 「これに懲りたら、わがままはやめることです。  内面の美しさをみがけば、それは永遠の美しさとなるでしょう」 その後、心を入れ替えた女性は、心優しい内面の美しい女性へと成長した。 けれども、石食鳥の卵を見る時だけは、一気に飲み干した時の石食鳥、いや、白銀月鳥の卵の味を思い出して、ぶちゃいくな顔になってしまったそうだ。
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