醜石美月

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一人の美しい女性が、窓の外を見てため息を一つついた。 絢爛豪華な室内に置いてさえ、女性はひときわ目を惹く美しさだった。 「せっかくの満月だというのに」 雲のかかった夜空を見上げる。 満月の晩に空を飛ぶ白銀月鳥を見るのが、女性の楽しみだった。 本来なら、満月の光に輝いて夜空に光の橋を架ける白銀月鳥の群れが、見られるはずだったのだ。 多くの家来に命じて、大きな扇を作らせ、雲を吹き飛ばそうとしたが無駄だった。 厚い雲は、月の光の一粒も地上へは漏らしはしなかった。 「ぎょあぎょあ」と。女性の耳元に鳥の声が聞こえてきた。 眼下の川から聞こえてくるようだった。 「石食鳥共か。いい気なものだ」 女性は、白銀月鳥が好きだった。 そして、それ以上に石食鳥が嫌いだった。 まず第一に、見た目が悪い。 嘴が石を大量にくわえ込めるよう大きくなっている。 石の消化に時間がかかるためだろうか、腹回りはいつもでっぷりしている。 色も鼠色で汚らしい。 なにより、その卵。 卵黄と白身までも灰色のその卵は、とてつもないコクとえぐみで口内に残り続けるという。 そして、口にした者の顔をぶちゃいくにしてしまうという。 女性はこの国の女王だった。 その美しさによって、王に見初められた。 だからこそ、美しさをそこない、食したものをぶちゃいくにする石食鳥の卵は嫌悪の対象だった。 そして、その美貌もいつまでもつか。 最近女性は、鏡を見るたびに、憂鬱になる。 家来たちに当たり散らすことも多くなり、わがままも増えた。 今は王もわがままを受け入れてくれている。 けれど、このまま年を取り、女性の美しさが衰えていけば。 そこまで考えて、女性は、ぞっと身をすくませた。 窓の外を見る。 白銀月鳥。その美しさは、女性から一時期老いの恐怖を忘れさせる。 それに、卵。 食した者に永遠の美しさを与えるという。 その卵さえあれば、女性は老いに悩むこともなくなるのだ。 家来たちに探させてはいるものの、白銀月鳥の卵は伝説の食材だ。 そう簡単に見つかるはずもない。 「女王様!白銀月鳥の卵が見つかりました!」 はずもないことはないらしい。 女性は、大喜びした。
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