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秘めた想い
澄み切った青空の下、春を告げる爽やかな風に吹かれ、桜の花びらがサラサラと舞い散る中、紺色のブレザーとチエック柄の少し短めのスカートで、桜並木のような通路を歩き、アトラント学院の校門を目指す。
弾けるような明るい挨拶を交わす声が響き、生徒達の活気に満ち溢れる中、私は一人静かに黙々と歩き続ける。
活き活きとした笑顔を見せ、軽いステップを刻むような感じで、颯爽と歩いていく生徒もいた。
皆、前を向いて、輝かしい未来を目指し、突き進んでいる感じだ。
それに比べて、私は……。
見つめるべき先は正面ではなく、下を見ている。俯いた感じで、少し暗めの雰囲気を漂わせながら、一定のテンポで目的も無く機械的に歩いている。爽やかな春の日差しですら、気だるさしか感じない。何で高校に進学をしたのだろうか。そんな気持ちにまで陥ってしまう。
特に目的があったのかな。
この学校で特にやりたい事があった訳ではなかった。
ただ、この学校には、私が中学校の時からずっと憧れ続けていた一つ上の先輩がいたから!
それだけの理由で、頑張って勉強をして、この学校を受験してしまった。努力の甲斐あって合格はしたけど……。
不合格になってしまった人達には、申し訳ない想いを感じてしまう。
こんな消極的な気持ちで良いのかな……。
ネガティブな気持ちを抱えたまま、校門を通過し、皆が集まっている掲示板の所へと歩いていく。
皆、掲示板の内容を見て、一喜一憂をする。掲示板の内容は、新入生のクラスの事だ。中学の頃から仲の良かった友達と一緒になれれば、嬉しいだろう。けど、私には特に親しい友人なんていなかった。
何処のクラスでも関係ない。私の意中の人は、一つ上の先輩だ。
「祐奈。何組になった」
後ろからの聞き慣れ過ぎた声に振り向く。隣近所で小学校から、ずっと同じ学校だった、宮脇 智也(みやわき ともや)だ。幼馴染になるのかな。見た目は、これと言った特徴はないけど、優しい人。体型は痩せ型で、何処か頼りない感じ。
「B組だけど、智也は」
「俺はA組だよ。中学校の時の知り合いはいないな。祐奈は」
「私も同じ」
特に楽しい会話を交わす訳ではない。智也は幼馴染であり、友達を超える存在になることはない。智也と一緒にいても、胸がときめく事はないから。
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