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もう一つの告白
俺は智也。
祐奈とは幼馴染で、長い付き合いの筈だけど、相手にされていなかった……
俺はいつの間にか、祐奈の事が好きで堪らなくなっていた。どうしたら、相手にしてもらえるか必死に考えたよ。
祐奈が中学の頃から、結賀先輩に憧れていることは知っていた。まずは、そこを何とかしなければいけない。祐奈の結賀先輩への憧れを、消し去る必要があった。お陰で俺は祐奈の眼中に入っていないのだから。
結賀先輩は陸上に真摯に取り組んでいただけあって、付き合っている彼女がいないことを知った。自分のクラスに可愛い娘で、結賀先輩に憧れている娘がいることが分かり、俺はその娘に、
「結賀先輩は、今、付き合っている娘がいないから、アピールをすれば、いけるかもよ」
とけしかけた。
その娘は、次の日には結賀先輩にアピールをし、付き合いを始めた。俺の策は見事に嵌った。結賀先輩の真面目な性格からしたら、二股はないだろう。これで、祐奈がアピールをしても、断られるはずだ。
けど、念には念を入れた。祐奈の行動もしっかりと見張っていた。祐奈が結賀先輩の下駄箱にラブレターを入れた時は、祐奈がいなくなってから、こっそりとラブレターを抜きとり、中身は読まずに焼却した。
祐奈の結賀先輩への愛の告白なんて、読みたくない。
祐奈なら、結賀先輩から何の返事もこなければ、諦めるだろうと思ったけど、その考えは甘かった。
祐奈の積極的な行動は続いた。流石に、結賀先輩のバッグからラブレターを抜き取ることは出来なかったが、結賀先輩は俺の思惑通り、祐奈の告白を断った。
ここからが勝負だった。
祐奈の表情は、今までにない暗さを醸し出していた。声をかけようにも、近づき難い雰囲気を漂わせていた。下手に話しかけても、相手にされず終わりだろう。俺は、祐奈を見守る事にした。
学校を暫く休み、登校はしてきたが、表情からかなり酷い状態であることは分かった。それでも、見守り続けていたが、ある日、泣きながら、怒りと憎しみの表情を浮かべて走り去る姿を見た。
祐奈は余程の理由でも無い限り、途中で帰るような事はしない。祐奈の異常な行動が気になり、俺は祐奈を追いかけた。
祐奈は家に帰ったものの、部屋に明かりもつけずに閉じこもったままで、出てこなかった。それでも、俺は外で見守り続ける。祐奈の事が心配で仕方なかったから。
辺りは暗くなり、玄関のドアがゆっくりと開き、祐奈が出てくる。
そこにいた祐奈は悲しみにくれた姿ではなかった。悪魔のような形相をし、狂気に包まれた祐奈だった。
かなりやばい雰囲気しか漂ってこない。
しかも何かを隠し持っている。
とにかく嫌な予感しかしなかった。
俺は祐奈の後を付けた。
嫌な予感は的中した。
祐奈の向かった先は、結賀先輩の家だったのだから。しかも、家を通り過ぎた辺りで、通路の脇の茂みの中に身を隠している。
隠し持っていた物ってまさか……。
嫌な予感を通り越した物を感じた俺は、別の通りに抜け、駅の方から祐奈が隠れた場所へと向かい歩きだす。
俺はバッグを正面に持ち、歩いていく。
祐奈が俺を結賀先輩に間違えて、飛び出してくれる事に期待をして。
俺の体格は結賀先輩と余り変わらないから、暗闇の中なら間違えるかもしれない。
元の可愛い祐奈に戻ってくれるなら、どんな危険だって厭わない。俺は祐奈が隠れた、茂みを目指し、暗闇の中を歩き続ける。
不意に身体にかなり強力な衝撃を感じたけど、力任せに弾き返した。
金属音が鳴り響き、包丁が転がっているのが分かった。
俺は泣き崩れる祐奈の両肩に手を置き、ひたすら祐奈への熱い想いを叫び続ける。
それしか俺には思いつかなかったから。
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