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私の高校生活は特に目立つことなく、平凡極まりないものだった。普通に静かに授業を受け、授業が終わったら当番の仕事をこなして帰宅する。何が楽しくて、生きているのだろう。そんな疑問すら感じてしまう毎日だけど……。
私が高校生活を送る上での唯一の楽しみ。それは、憧れの先輩を遠くから見つめていること。それだけで、心が救われているように感じた。
先輩は陸上部で活躍をしている。精悍な顔立ちで、トラックを颯爽と走っている姿を見ているだけで、心臓の鼓動の高まりを一人静かに感じていた。
「祐奈。お前、陸上に興味なんてあったのか」
私の唯一の楽しい時間に割り込んで来る、智也のデリカシーの無い妙に明るい声。
「別に……。興味なんてないけど……」
「いや、何時もここで一人、じっと陸上部の練習をみているからさ。気になっただけ」
「皆の一生懸命な姿を何となく眺めているだけ。特に意味はないけど……」
素気ない返事をする。
「何、ツンツンしているんだよ。新しい友達出来ないぞ!」
「大きなお世話。私の勝手でしょう」
「相変わらずだよな。たまには一緒に帰らないか。どうせ暇だろ」
「悪いけど暇じゃない。私は一人で帰るから。ついてこないでね」
私は起伏の無い無感情なトーンで、智也に言葉を投げつけた。私が時めいている時間の邪魔だけはしないで欲しい。
私は智也を振り切り、一人で帰宅をした。
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