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「大丈夫ですよ〜」
気がつくと、目の前に看護婦が――いわゆる白衣の天使が――いた。
「楽にしてくださいね〜」
ゆったりとした声に、自然と心が落ち着いてくる。
言われた通りにしよう。
楽になろう……しかしその時、ふと思った。
これでいいのか?
白衣の天使……天使とは、魂を天に導く存在なのではないか?
と。
もちろん、献身的な介護をしている姿がまるで天使のように美しいからそう呼ばれてるという事はわかっている。わかっているが、しかし死者の魂を天国へと運ぶのもまた天使である。
目の前の女性は言った。
大丈夫ですよ。
一体、何がどう大丈夫なのか?
俺自身、俺がどうなっているのかわからないのに。
楽にしてくださいね。
言われたまま楽になってしまっていいのか?
気を抜いた途端、俺は再び意識を失うのではないか?
そして、それこそが彼女の狙いなのではないか?
今目を閉じたら、そのまま目覚める事がなくなるのではないか?
いくつもの疑問が浮かぶ。
こちらに向けられる優しげな微笑み。
慈愛に満ちた看護。
「安心してください〜。大丈夫ですよ〜」
再び繰り返される心地いい言葉。
この声に従うか。
抗うか。
迷っているうちに、意識が遠のいていっているのか、俺の目の前は、真っ白になっていき……。
……。
………。
…………。
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