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最後の危機を救え
里菜と沙耶は空の上から線路を目視で点検している。
「今のところ異状は無いが……、しかしアンタ、私の仲間だったんだな」
「そうだな。今日からここで仕事をする」
「もしかして、アタシの後継か?」
「そんなところかもな」
「ふーん、通りで」
雪も溶け始めた線路はいつも通りに見えた。が、600メートルほどの短いトンネルを抜けた地点で里菜が何かを見つけた。
「ん? あれはなんだ?」
2人は線路に降りようとすると、小規模だが土砂が崩れているのが見えた。
「この量だと乗り上げたら事故になるな」
「まずい! 早く列車を止めないと」
ところがさきほど発車した列車は、現場手前のトンネルに進入しようとして警笛を鳴らしていた。
「まずいぞ! あのまま行ったら脱線する! 信号雷管を設置しないと!」
信号雷管とは一種のかんしゃく玉のようなもので、レールに設置して使う。
これを列車が踏むと大きな爆発音がする。運転士はこの音を聞くと前方の線路に異状があると判断し、直ちに列車を停止させるのだ。
「けど、今から行っても間に合わないぞ」
「やってみなくちゃわかんねえよ」
「ちょっと待て、私に考えがある。それを貸してくれないか?」
「ん? 何をするつもりだ!?」
沙耶は里菜から2つの信号雷管を受け取るとそのまま線路に向かって投げいれた。里菜はそれを見て思わず叫んだ。
「それはそうやって使うもんじゃねえよ!」
だが、沙耶はあくまで冷静だ。
「それは分かってるさ。それより線路を見てくれ」
「あ……!?」
なんと! 信号雷管が30メートル間隔できちんと並べられている。
数秒後に列車がそれを踏み、バンバンと言う大きな爆発音とともに緊急停止。
土砂崩れの現場前で止まり、最悪の事態は避けることが出来た。
「アンタ、あんなことができるのか。すげえじゃん」
「ま、あのぐらいは出来るさ」
おどろく里菜に、沙耶は当然と言う感じで答えた。
「と、とにかくありがとよ」
それを聞いて沙耶は、里菜に笑顔を見せて礼を述べたのだった。
結局、残りの列車は運休となってしまい、寂しい幕切れとなったが、先程の事件で人的被害が無かったことから、留夜幌駅での最終セレモニーだけは盛大に催され、現場から戻されたディーゼルカーから最後の汽笛が鳴らされた。
それを里菜と沙耶は、静かに拍手を送って見送った。
セレモニーが終わると、あれだけいた人は雲の粉を散らすように居なくなり、駅には静寂が訪れていた。
それを見て里菜がつぶやくように言った。
「ここもやがては何も無くなっちまうんだろうな」
すると沙耶はそれを否定するかのように、
「まあ、最近は色々な使い方もされているらしいが」
そう返したのだが、里菜はもう達観しているかのようだった。
「こんな田舎じゃどうだかね。明日からバスも走ってるって言うし……、さて、それじゃあ、そろそろ目をつぶるとするか」
そして、シーツもかぶらずに横になってしまった。
「おい、シーツぐらい被らないと風邪を引くぞ」
「風邪? んなもん関係ないだろ」
「いや……」
「ああもう。とにかくワタシは寝る」
「そうか。私はこれからもう一度この路線を見てくる。色々と勉強しなければならないんでな」
「ふーん、まあ、好きにするといい。それにしても、アンタのおかげで無事に最後を迎えられたし、話し相手になってくれてありがとよ、明日から、ここのことをよろしくな」
「褒められるのはうれしいものだな。ん、わかった」
沙耶は里菜に笑顔を見せながら頭を下げると、疲れていたのかそのまま眠ってしまった……
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