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俺こと美春川珠實は、見た目こそ茶髪とヘアピンとピアスで出来たチャラ男であるが、実を言うと人間ではない。
その正体とは、怪獣災害が起きることを事前に察知した光の国から派遣された使者、魔法小動物タマミンなのである!
……はぁ。
解りやすく言うならばあれだ。日曜朝に必ず1回は「◯◯! 変身するタマ!」となにも知らずに日常を謳歌していたはずの主人公を戦いに赴かせるド鬼畜マスコットのような存在、それが俺だ。
このスカジャンやスウェットの腰パンが異様に板につくチャラ男ボディは、世を忍ぶ仮の姿というやつで、本来の俺は真っ白い兎によく似たゆめかわいい妖精さんなのだ。
光の国、とはそもそもなんなのか。答えは単純、異世界である。それ以外に言い表し様がない。
桃色の空の下に瑞々しい草原が広がる常春の土地に、真っ白な西洋風の建物が点在するメルヘンな国だが、闇の国というまたもや異世界の国と長らく戦争をしている。全然メルヘンじゃない。
とはいえ、俺たちはお互いに国土を直接攻撃したことはまったくない。干渉することが出来ないからだ。なので、闇の国は光の国への足掛かりとなる世界を侵略しようとするし、それを防ごうという水面下の動きが常にある。
つまりは東京を襲っている怪獣災害は、光の国と闇の国の戦火が飛び火しているに過ぎないのだ。くそ程迷惑すぎて申し訳なくなってきた。
今回、俺が派遣されたのは今から半年前。
東京派遣、だなんて最前線も良いところに行きたがるやつはいなかったが、俺は結構ノリノリで日本にやってきていた。
この国は良い。食べ物は美味しいし、ゲームは多種多様で異世界通販で取り寄せるよりよほど安価で手に入る。
そして何より女子の制服が可愛い。
制服萌えとでもいうのだろうか、俺は制服を着た美少女に滅法弱かった。白地に紺襟、赤いリボンのセーラー服も良いが真っ黒でリボンのないものも良い。ワンピース型やブレザーも可愛いな。みんな違ってみんな良いんだ。異論は認める。でも否定はしないでほしい。俺は心の弱い変態なんだ。
俺がわざわざ学生なんてやってるのは、女子高生を近くで眺めるためである。あわよくば俺と共に魔法少女としてこれから来るだろう怪獣と戦ってくれる美少女はいないかという打算もあった。光の国の獣は欲望に忠実である。
……なんだか実逸みたいで恥ずかしくなってきた。俺たちは根本的な部分でRUITOMO-類友-だから仲良くなれたんだと思う。
前置きが長くなったが、そんなこんなで俺は日本の学生ライフを、かなりの不純な動機で楽しんでいた。
そして平穏は唐突に終わるのだ。
それは放課後に渋谷をぶらついていた俺の前に突如現れた。
あたりの高層ビルよりも頭ひとつ大きいトカゲに似た二足歩行の怪獣、チュートリウスだ。
破壊されたビル郡を呆然と眺めながら、俺はまだ見ぬ魔法少女に思いを馳せていた。なんせ仕事をサボって観光ばかりしていた俺は、この都市を救う魔法少女をまだ見つけていなかったので。
光の国は侵略されそうな異世界に使者を派遣するが、いつ襲撃されるかはわからないのである。もちろん派遣先に支援をしたりもしない。孤立無援のブラック企業社員、それが光の国の使者だった。
「あぶない!」
ぼんやりしていた俺の手を誰かが引いた。俺のいたところにコンクリート片が落ちてきてヒヤリとする。
「すまん、助かった」
お礼を言おうと顔を上げて、思わず固まってしまった。
風にはためく白いセーラー服、背中まで伸ばされた艶やかな黒髪、透き通るような白い肌……。
「大丈夫? 怪我はない?」
長い睫毛に縁取られた大きな瞳と、薔薇色の唇が安心させるかのように笑いかけてくる。
均整のとれた美貌と優しさ、そして勇気を併せ持つ、理想の美少女がそこにいた。
俺は思った。彼女こそが俺の魔法少女になるべき存在だと。
言葉にすると大変気持ちが悪いのだが、確かにそう確信したのだからごまかしようがない。光の国の使者には秘密がいっぱいあるが、けっして嘘はつかないのだ。
「なぁ君、俺と――……」
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