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結論から言うと上手くいかなかった。
白い光が消えて行くなか、現れたのはレースとフリルとピンクに包まれたゴリゴリマッチョの軽井美琴だったし、彼に手を固く握りしめられているのは、黒いバニーガールの装いになってしまった哀れなチャラ男だった。どう控えめに言っても変態と変態のマリアージュ。パトカーのサイレンの幻聴が聞こえる気がする。
「よし」
「オイ待て待て、待って、待って……待ってください!」
そのままチュートリウスに突撃しようとする軽井先生を引き留める。
「何故だ? 事は一刻を争う」
「いや本当に男前ですねぇ! でもその格好で出ていったら2度と教壇に上がれなくなるからちょっと待ってください! 変身失敗してます!」
ピタリと動きを止めた軽井先生が振り返る。
「なんと、何が原因だ?」
「多分、先生が魔法少女のイメージから解離している事が原因だと……魔法の力でも上手く修正できなかったみたいで」
「俺は無修正でも構わんが」
「その言い回しやめてください。あんた教職の自覚あります?」
しかし、これは困った。あらゆる意味で魔法少女より破壊力のあるものを生み出してしまったが、これが人目に触れたら最後、彼は2度と往来を歩けぬ体になってしまう。頼み事をしている手前、最低限のコンプライアンスは保証して差し上げたい。
「一体、どうしたら……」
悶々としていると、軽井先生は何を思ったのか、おもむろに俺の腰を掴んで持ち上げた。驚いてる間に股の間に黒々とした短髪の頭が割り込んでくる。
女装をしたマッチョが、バニーガールのチャラ男を肩車しているという、あんまりに、あんまりな絵図が完成してしまった。
「ひぇ、ここが地獄か」
青ざめる生徒の様子など気にも止めない男が、股の下で再び「メカジキ!」と叫んですぐ、再び白い光に包まれた。
この暴挙を行った犯人は後に「接触面が足りないのだと思った」と語る。
ゴリムキ成人男性の変身シーンは公序良俗の観点から割愛させて頂くが、結果的に軽井先生の機転で変身は成功し、魔法少女プリンセス★ルミカが誕生したのだった。因みに命名は軽井先生が自身でされている。プリンセスとついているが、当然ながら生まれてこのかたプリンセスだったことはない。先生の世代では金髪の魔法戦士といえば月のプリンセスらしいのだ。俺にはよくわからないが。
そこからはルミカの独壇場だった。圧巻の物理的強さを発揮した魔法少女(概念)は、チュートリウスを殺戮する片手間に巻き込まれた人々を救い、一躍時の人となった。哀れなチュートリウス、戦闘描写もないまま首を切断されて出番終了である。
しかし軽井先生は騒がれる事をあまり得意としないのか、単純に空気が読めないだけかわからないが、カメラやマイクを向けられても返り血まみれの手でピースしてみせるばかりだった。魔法の存在をあまり公言したくない俺の立場的にはありがたい事である。
ただ1つ問題があるとすれば。
「上手くいったね! タマミン★」
絶世の美少女であるはずのルミカを見ても、軽井先生のこけし面がちらついてなにも頭に入ってこないという事か。
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