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周りに緑の木々が見えてくると同時に、森の香りが辺りに満ちる。
私は大きく呼吸をした。
胸いっぱいに新緑の香りを吸い込んだ。
お腹の下の方からぐぐっと力強さと浮き立つ思いが湧いてくる。
まるで子供の頃の夏休みが始まった日みたいだ。
「この先に行ったら、みんな忘れてしまうのだろうかね・・。」
私が呟くと、妻が微笑む。
「忘れても、また一緒に生まれて巡り合えますとも。」
「もう一度、出会いからか・・。それも悪くないね。」
妻が声をたてて笑った。
そうだ・・私はこの妻の笑い声が大好きだった。
ユキの結婚が取りやめになって、久しくこの声を聞いていなかった。
そうか・・きっと妻は私以上に辛かったに違いない。
そんな妻もまた、いじらしく愛おしかった。
僕らは指を絡めて、恋人の時のように森の柔らかな土を踏みしめて歩く。
後ろから軽やかな足音が聞こえた。
振り向くとユキが微笑んでいた。
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