白の狭間

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私はユキを強く思った。 すると病室のベッドに起き上がっているユキが見えた。 横に親友の斎藤とその奥さんがいて、ユキの世話をしてくれていた。 すまんな・・斎藤。 お前の息子とユキが一緒になれたら・・本当によかったのにな・・。 ユキは熱があるのだろう、赤い顔でぐったりとしているが 斎藤夫人に支えられながら手紙を書いているようだ。 両手と頭に巻かれた包帯が痛々しい。 やがて疲れたように手を止めると、奥さんが封筒を手渡した。 声は聞こえないが、奥さんに何か頼んでいるようだ。 奥さんが涙ながらにそれらを受け取って、 封をして気づかわし気にユキを布団に寝かせる。 ユキの口元が動いていて、 私は聞こえなくても何を言っているか解ってしまった。 あの憎き男の名だ。 ・・・なんて優しい笑顔であの男の名を呼ぶんだ・・。 その顔は明るく穏やかに輝いて、まるで弥勒菩薩(みろくぼさつ)のようだった。 そんなに愛していたのか・・。 ユキのいじらしさに、胸が(ふさ)がれる思いだった。 でもそれほどユキが求める男ならばと、 不思議とあの深い憎しみはもう湧いてこなかった。 私は妻の手をぎゅっと握りしめた。 妻が少し笑って、私の手を握り返した。 「あの子ほど人を愛せる子はいませんね。 私たちは良い子を授かりましたわ。」
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