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「おとうさん。おかあさん。」
「ユキ・・。」
「来てしまったのね・・。」
妻がユキの体を抱きしめながら、愛おし気に涙を浮かべている。
「すまんユキ・・。助けてやれなかった・・。」
私が絞り出すように言うと、ユキが笑った。
「いやだ。二人とも。
私とってもとっても楽しかったわ。
こんなに大切にしてもらった。
それに大好きな人に大好きって言えたの。」
「達也・・君にかい?」
私が驚いて尋ねると、ユキはにこにこと何度も頷いた。
「だから、おとうさんおかあさん。
私ここでもう少し達也くんを見守っていたい。
先に行っていて。」
どうもこことあちらでは時間の流れ方が違うらしい。
妻が私の手を引いた。
「行きましょう、あなた。私たちが先に行かないと。」
私はもう一度ユキを抱きしめると、背でユキの小さな声が聞こえた。
「お父さん、今まで本当にありがとう。お父さん、大好き!」
いつも手をつなぎたがったユキ。
背負うとすぐに泣き止んだユキ。
赤いまあるい頬で、いつも一生懸命だった大切な僕らの宝物・・。
私は腕にもう一度力を籠めると、妻の方に進んだ。
「ありがとう、ユキ。
どんな時でも、ユキはお父さんとお母さんの自慢の娘だったよ。
また、僕らのところに来てくれよ?」
声はかすれてしまったが、ちゃんと伝えられた。
ユキが泣きながら微笑んで、大きく頷く。
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