調理実習

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調理実習

今日の私はいつもと違う。私の運命が動き出す日。 そう、調理実習という名の戦争があるからで、私の得意分野を存分に発揮できる。 しかも今回はお菓子作りでクッキーを焼くことになっている。クラスのみんなにいいところを見せて、イキりたいわけじゃない。チヤホヤされたいわけでもない。そんな低次元な承認欲求を満たすことが目的ではないのだ。 まあ、結果的にみんなは私に羨望の眼差しを向けることになるであろう。 そうなってしまうのは仕方がないとして、私にははっきりとした別の目的がある。 それは… 放課後。 廊下の向こう側を先輩が通り過ぎる。これから部活に向かうのであろう。 「先ー輩ー! お疲れ様です!」 (偶然を装い、あたかも今お見掛けしましたよ感を演出する。十五分もここで待機していたことは秘密にしておこう) あざと可愛く、甘い声で先輩に駆け寄る。 「あのこれ、今日調理実習の時間に作ったんですけど良かったら食べて下さい!」 今日この日のために、雑貨屋で買っておいた、いかにも女子力高め(笑)なラッピングで包んだクッキーを先輩に渡す。 「口に合うかどうかわからないんですけど、先輩のことを想って一生懸命作りました!」 (少し謙遜しながらも、そして頬を赤らめ恥じらいながら言うのがコツだ) 先輩は両手でクッキーを受け取ってくれた。 (ここで少し手を触れてあげることも忘れずに) 「じゃあ先輩、部活頑張って下さい。お疲れ様です!」 片方の手を腰に当て、反対の手で敬礼のポーズをする。 そして先輩に背を向け、歩き出す。一、二歩歩いたところで立ち止まり先輩のほうへ向き直る。 「あ、そうだ。食べたら感想、教えてくださいね!」 彼女はふふっと不敵な笑みを残しその場を後にした。 私には秘策がある。先輩を欺くとっておきの秘策が。 ”彼”を手に入れることができるのなら私は何でもする。 悪魔や死神に魂を売ってでも… 次の日、先輩は学校へ来なかった。そして次の日も、また次の日も先輩は姿を見せなかった。もう、先輩に会うことはないだろう。 どうやら先輩は、ご自慢の綺麗な黒髪ロングヘアーがほぼ抜け落ちたらしい。 女にとって髪は命。それを剥奪された先輩は今後どうなっちゃうんだろう? “彼“との関係もこれで終わりになるはずだ。 笑いが止まらなかった。こんなに高揚した気分は久しぶりだ。 私は勝利を確信し、震えが止まらなかった。 「これで”彼”は私のモノ」
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