今日はxx日和

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アメトラジャドール・トルペードと リュウ・ファルクスの部屋だ 「…」 仕方なく、扉横のインターフォンを押す 少々不機嫌な声が聞こえてくる 《はいはい?こんばんは… こちらは…002号室アメトラです。 何か御用でしょうか、over?》 over…無線機で自分の報告が終わったことを示す合図だ。こいつはインターフォンごときに何を報告したのだろうか 《ちょっと、もう朝よ…あら、なに?来客? おはようございます、こちらリュウ・ファルクスです。御用でしょうか》 こいつはどこかの人妻のような口調だ 男社会で、女っ気も需要があるとはいえ… いいや、このご時世人の嗜好に文句を言うつもりはない 「……私だ…フレッシュメン」 ジエンは扉越しでもあくまで笑顔である。 《…ええと?こちらアメトラジャドール・トルペードですが?どちら様でしょう》 未だ不機嫌な声だ。 殴ろうかと思ったのは一度目ではない 《ば、ばか! ジエン様じゃないの、どきなさい!》 ようやく、頭のマシな方が気がついたらしい 「…」 少しの沈黙と騒がしい足音の後、扉が開いた 「お早うございます寮監、何か御用で…」 リュウが顔を見せつつ、アメトラを隠すように押しやっている 「何だよリュウ、あ、偉い人か?」 ただ、いくら隠そうとも失態は丸見えだ 「…ここで騒いだか」 「え?別に」 「うるさいわね!あんたは黙りなさいよ! ジエン様、全くお恥ずかしながらこの馬鹿が少々ご迷惑をおかけしましたでしょうか? 心当たりは大有りですが…」 「よい、何があった」 「えーと、ああー、その…ですね」 リュウは手をすり合わせている 何を隠している… 「花が咲きました」 抑えられていたアメトラが、ようやく丁寧語を覚えた 「…それだけか、アメトラジャドール」 ジエンの笑顔で、勘の良いリュウはすぐに心中を慮った。何か気に触ることをすれば即刻退場、それがジエンのやり方であると噂でもよく聞いたものだ 「ええ、そうなんですよ。この子って毎日こんなことで大騒ぎするものですから困って困って。普段は…というか、勤務中はそれなりに大人しいし社会性も最低限はあると言いますか…」 リュウは必死に取り繕う それを押し除けて、アメトラは屈託なく言う 「ブルースターです。ああ、知りませんか?花の名前ですけど…あ、それを聞きにきたんでしょう!見ます?えーと、ジエンサマ」 アメトラジャドール、 そのナンバーは202。 「花はいい、顔を見せろ」 「はぁ、?」 生意気な顔をする…どこでそんな表情を覚えたのか。 「いやだわジエン様、私の顔も見てくださって構わないのに…」 「リュウ、キモいよ」 髪は上質な手触りでキャラメル色、瞳は青 骨格は東欧型、背丈はミドルサイズ 洗練された肌の質は良い、 青い目はみずみずしく輝いている 唇の色は見事な朱色 バランスは整っていて、人目を引く顔立ち 「嫌だわっ、ジエン様、私以外の男とそんなにお顔を近づけなさらないで!」 「それは俺のセリフ!あと 多分この人、今何も聞こえてない…うわっ」 「きゃあっ!ジエン様、いやらしい…」 「ジエンサマ、そ、それはくすぐったいです」 親は腕のいい人形屋か何かと見える 身なりは最上級に整えられているが、その分言動の躾にムラがある それほど裕福な家庭の出とは考えにくい 「…この芳香は」 蜂蜜のような香りだ 何度か嗅いだ、しかし珍しい香り 「獣人のものらしい…です」 「臭いんですよおコレが! もう吐き気がするわ」 「はいはい、もうわかったって」 隊員としての不具合は、その点だけか 「叫んだのは、花が理由か?」 「はい、さっきそう言いましたけど?」 こんな調子で毎日大騒ぎしているから、 同じフロアの隊員も学習したのだろう この部屋から大声がしても、どうせ些細なことだろうと 「…なら良し」 全く、おかしな隊員が紛れ込むものだ 「肌に傷が数点ある、医務室へは?」 「ああ、そういえば隊長に言われたな」 「あんたまだ行ってないの?さっさと行きなさいよ!万が一獣ウイルスうつされてたらどうするのよ!」 「今日行くって、うるさいな」 そうだ、この部屋からの騒音もなくさなければ 「それと…上の階の者が目を覚ますほどの大声は出さないこと、学習しなさい」 アメトラジャドールの頭に手を置く 「…上の階の者が目を覚ますほどの大声は出さない、わかりました」 言えば分かるのが、ここの隊員の長所である まあ、個人差はあるが… 「ああ、今日もジエン様はお美しかった」 「ジエンサマって初めて見たけど」 「嘘ね、だって入隊式では必ずお目にかかるもの」 「…そっか、また色々忘れてるな」 「本当にボケてるわよねあんたって」 「ははは、かもなー」 さあ、あの隊員は本当に学習したのだろうか…
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