今日はxx日和

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「…お前はドMか?」 男は驚いたようだ 「そんな言葉…知らない」 ここに来てから、知らないことだらけだ 今までは誰とも話さなくて良かったし 本の中の言葉しか教わらなかった 「何も知らないのか?人間のくせに」 「悪かったな…っ、あ」 男の手が股間に触れた 力が抜けてしまったところを、男が支えた 「これは酷い」 「は…?」 「一度も抜かなかったのか」 男は濡れる髪をかき上げた 黒髪に白い毛が混じっている 細い鼻筋も柔らかい唇も綺麗だった 人を美しいと思ったことはなかったけど 「抜く、って?」 「ああ…もう、いい」 男は俺のそこを握り、荒々しく擦った 「あ、嫌だ、っ…!」 気持ち良い?これは…少し痛い ずっと触っていなかったからか、敏感になった気がする 粘膜に触れられると、ひりひりする 「嫌か?」 男が顔を近づけた 美の暴力に心臓が暴れる 雨に濡れる目が綺麗だった ずっと見つめていたくなったが それがだらしない自分の顔を見返しているのかと思うと恥ずかしい どうすればいいかわからなくなって目を逸らしたら、笑われた 「お前っ、笑うなっ」 「俺の名前はレイだ」 レイは俺の首に吸い付いた また血が奪われていく 舌が首筋をずるりと這う感覚は 背中と腰に響く 「ああっ」 頭の中で電子音が鳴った 《体温が異常値に到達、運動を休止せよ》 「も、やめろ…レイ!」 体が壊れそうに熱い 「お前に交尾はまだ早過ぎる。一度出せば、暫くは収まるだろう…」 レイの手は止まらなかった すぐに白い液体が溢れ出した 「ああっ、ああっ…」 こんなに、どろどろしたものだったか… とても気持ちがよくて意識が飛んだ 「…っく、ひっく」 何だろう、この音は 泣き声だろうか… 目を開けると、薄暗い場所にいた 冷たい風が通り抜ける 見回すと、蝋燭がついていた キャンドルともいうのかもしれない 目を慣らすと、そこはバーのようだった カウンターと椅子 並ぶビール瓶、ワイン、グラス 「いつまで泣いてんだ、ジン」 カウンターの内側からレイの声がした ジン…?ああ、レイの弟 なんだかここにいてはいけない気がして、隅に隠れた というか、俺は今獣人の住処にいる? 物凄い潜入捜査じゃないか。 「だって、っに、兄ちゃんがっ!あっ、あ、 アメトラジャドール・トルペードを!」 俺の名前、しかもクソ長いフルネームを何故知ってる? 「何?アメ…?」 「クソ!アホ!兄貴の馬鹿ああああ!」 「こら、ジン!」 泣いているらしい、ジンがカウンターから飛び出してきた やばい、と思って顔を伏せた 「あ…。先生?」 恐る恐る顔を上げると、あの、少年がいた 薄暗いが、初めて顔がよく見える レイにそっくりだった  ジンは控えめに声をかけてくる 「目、覚めました…?」 いや、レイをもっと可愛らしくした感じの。 レイが荒々しい人食い狼なら、 ジンは草食系の子犬だ。 無害、ただの癒し! ジンは、涙目で俺の顔を覗き込んだ 兄弟そろって顔面がおかしい。 整いすぎている 「う、うん…おはよう」 挨拶すると、驚いたようにジンは口を抑えた 「…!!!」 「ど、どうした?」 ジンは目を見開いて首を振った 頭に付いている茶色の耳が、ピンと立った 「先生、美味しそう…」 牙を光らせて、ジンが距離をつめる 「ひ、ひいっ」 肉を、食われる! 誰だ?草食系の子犬だとか言ったやつ! 「先生…一口、ちょっとだけ…」 一口って!?どういう単位? ふくらはぎ一片とか!? 「いやっ、待て、落ち着け!ジン君!」 「僕の名前!覚えてくれたんですね… ますます食欲がそそられる…」 この間会った時は小さく思えたが、 顔が幼いだけでレイと変わらないくらいデカいじゃないか! 誰だ少年とか言ったやつ! 「ダメだ!嫌だ!死にたくない!」 犬みたいに浅い息が聞こえる 「先生…」 牙が、刺さる!! 「こら、ジン」 「うわっ」 レイが、ジンを摘み上げた 「た…助かった」 「おい!兄ちゃん!何すんだよ!離せっ!」 「こっちの台詞だ!すぐにつまみ食いしようとするな!」 え、あ、そういう? つまみ食いじゃなきゃいいのか!? 「ほら、餌に謝れ」 「ごめんなさい、先生」 「いや、餌じゃねえから!!」 「えっ、嘘だろ先生!帰るなんて」 「ごめん、俺明日からも訓練があるから…」 「先生…」 「また来るから」 ジンの頭を撫でて立ち上がった時、 レイが俺の手を引いた 「返さねえよ」 「え?」 レイは鋭い目で俺を見た 「当たり前だ。お前、自分が何者か分かってんだろうな?」 「…」 「兄ちゃん」 「お前はジンを殺そうとした。俺達一族の敵だ。ここで易々と流しちゃ、俺の面子が潰れる。落とし前はつけてもらおう」 「ダメだよ!先生は敵なんかじゃない! 分かるだろ。いつまでも人と敵対していたら、俺達絶滅しちゃうんだよ」 「それは今考えることじゃねえ。 さっきはジンのことも考えてお前を殺しはしなかった。でも、お前がいつ俺達を裏切るかわからない」 「兄ちゃん!」 「こいつは銃を持ってきたんだぞ、ジン」 言われて腰のホルダーを確認すると、 銃はなかった 「俺が預かった」 銃はレイの手にある 俺はやはり、詰めが甘い 「俺をどうする?殺すのか」 レイに聞くと、レイは銃口を俺に向けた 「兄ちゃん!」 ジンがレイに叫んだ 「黙れ。人間は信用できないもんだ。 お前もそろそろ学べ。 こいつらは俺達を害獣だとしか思ってない。仲良しごっこしても、 後で裏切るのが人間だ」 「…」 ジンも黙ってしまう そうだ 人間は信用ならない 友達だと思っていた人が陰口を言っていたり 些細なことで嫌いあったり くだらないことで意地悪したり よく知りもしない相手を恨んだり憎んだり 「俺は…獣人のことなんて全然知らなかったよ。それなのに、君達を殺すための訓練を毎日毎日繰り返して、それが正義だと思ってた。 俺は、怖がりだから…よくわからないけど強いお前達に怯えて、武器を持つことしかできなかった」 俺は、何も知らなかった 花を愛するように、人も愛したかった だから、人を守りたかった 人を守るには、敵を殺すしかなかった 「でも、俺はやっぱりお前達に怒ってるよ」 「何?」 「俺は、人間に死んで欲しくない! 傷ついて欲しくない!同じ人間だから、痛みがわかるからだ。 確かに俺は獣人のことを何も知らなかった。でも、獣人が人間を傷つけてきたのは事実だ!俺がお前を殺しちゃいけないのに、お前が俺を殺していい理由は何だ!」 レイは唸る声で威嚇した 「お前が俺より弱いからだ。 弱いものは食われる。弱いものが武器を持って逆らうのはルール違反だ。 人間がやってきたことは自然に反する。 お前達は食いもしない生き物を殺し、 自分達のためだけに利用する。 他の生物のための自然を破壊する。 人間は好き放題暴れすぎた。 今度は大人しく俺達に食われていればいい。 それが自然の摂理ってもんだ」 納得いかない。 人間が強くなったのは、弱かったからだ 生き残るために努力するのは、自然なことだ 食われるのをただ待っているのは植物だけ 俺は、人間は、生きるために逃げて戦う そうしなければ絶滅する それは動物全ての宿命なのに 「2人とも、落ち着こうよ」 ジンが笑った 「散歩にでも行こう、雨が止んだよ」 ジンは、今までに誰かを食ったのだろうか どちらにしても、ジンを撃つことはできそうにない 「先生、俺はどっちの言うこともわかるよ」 俺とジンは、暗い夜道を歩いた レイは留守番すると言って聞かなかった 「俺は兄ちゃんがやってきたこともめちゃくちゃひどいと思ってる。だってあいつ、この間女の人襲ったんだ。ありえないよ!被害者はみんな、しばらく催眠状態になるから兄ちゃんを恨みはしないけど…それがまた卑怯だろ」 「そんなこともできるのか、あいつ」 「まあね、大人になればいろいろと。 だけどさ、聞いてよ。俺は今まで誰も襲ったことがないし、人間の唾液一雫すら飲んでないよ。今までヒト以外の肉だけで暮らしてきた!偉いと思わない?先生」 「うん、すごい、偉いな… ごめん、そんなに頑張ってたジン君を殺そうとしたなんて…」 「それは反省してよ、先生。でも、仕方ないよね。獣人って怖いから。僕もさっき、先生のこと美味しそうって思った。兄ちゃんがいなかったから食い殺してたよ」 「こ、怖いなぁ!」 「うん、だから気をつけてね」 ジンが悪戯に笑った 素直にわかった、とでも言えばいいものを 金色に光る目のせいで言葉に詰まる これが、噂に聞く獣人の魔力だろうか 「先生?どうかしたの」 ジンは、まだ幼く見える しかし、身長は俺と変わらないし 既に整った、完璧な顔立ちのせいか 年齢不詳だ こんな無垢な顔でも、食欲のために人を殺すこともできるのか。 「…そんなに人の肉は美味い?」 「さあ、僕はよく知らないけど… 兄ちゃんも人肉はあんまり好きじゃないし。 好きな奴は多いけどね。血よりも歯応えがあるし、食べた感じがあるからかな。 人肉の中にもランクがあるから、一概には言えないって兄ちゃんが言ってたよ」 「そっか…」 頭の中がギリギリと動く 《Memorizing completed》 何だ?何の声だ… 「先生?」 ジンが俺を呼ぶ 心配そうにこちらを見ている 「別に、なんでもないよ」 夜は長いが、雨上がりに雲が消えた 肌寒い 「ジン…」 声をかけようとすると、既にジンがこちらを見ていた 「そろそろ帰ろうか?寒いでしょ」 ジンは俺の手を握った 「熱っ!」 じゅっと焼ける音がするようだった 「え?あ、ごめん!先生、忘れてた 人って体温低いんだったよね」 「そうだ…この間も、ジン君に触れて火傷したんだ!またやっちゃったな」 はは、と笑うとジンはしょんぼりとした 「ごめんなさい…」
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