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アフレコスタジオ
「この度は、御迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
遙香が改めて坂木幸太監督や大宮茂雄音響監督たちに詫び、深々と頭を下げた。永遠も刹那と一緒に頭を下げる。
三人は遅れていた収録をするため、港区にあるアフレコスタジオに来ていた。事務所のゴタゴタで収録予定日に参加できなくなったことを詫びてからのアフレコは、今までに無い緊張感があった。しかも奥歯の治療は終わっておらず、違和感を抱えたままの収録だ。しかし、姉が一緒なのが良かったのか、NGも少なくスムーズに収録を終えていた。
「気にしないで、トラブルはこの仕事に付きものだから」
坂木監督が快活に言ってくれたので、永遠はホッとした。
「それにしても、大変でしたね。事務所は大丈夫ですか?」
「弊社はしぶといですから。とは言え、タレント部門を切り離し、今は声優部門だけで細々とやっています」
大宮の気遣いに、遙香は苦笑しながら答えた。今まではプレイングマネージャーとして刹那が永遠と一緒に来ているだけだったが、今回は迷惑をかけていることもあり遙香が同行している。
「それは大変ですね。御堂君たちには期待しているので……」
坂木が心配そうに眉を寄せた。
「安心してください、刹那に関しては声優部門の部長から、ブレーブの専務に昇進しました」
思わずスタッフたちが噴き出す。
「え? 刹那ちゃん、専務になったの?」
大宮は笑いを噛み殺している。
「あくまで『仮』ですよ、近いうちにちゃんとした人が……」
「なに願望を言っているの、あなたはブレーブの次期社長なんだから正式な専務よ」
「じゃ、ナンで師匠に使われているんですかッ?」
「今は声優としてここに来ているんだから、マネージャーに従うのは当然でしょ?」
「うぅ~」
アフレコ以外の時でも刹那は遙香に頭が上がらないと永遠は思った。自分も同じだが、基本的に母を制御できるのは父しか居ない。
「まぁ、そう言うわけなので、今後とも御堂姉妹とブレーブをよろしくお願いいたします」
遙香の言葉に坂木たちは笑顔で頷いてくれた。
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