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衆議院予算委員会
「反社会勢力が『結果として入っていた』では済む問題ではありません。これが首相の生命を狙う者だったらどうするんですか? 身体チェックはしているから問題ない? 世の中には素手で人を殺めることができる人間だっているんです。どうして反社会勢力が『紅葉を見る会』に入れたのか原因を追及すべきでしょう!」
佐伯一喜の言葉に所属する社会見廻り組はもちろん他の野党の議員からも喝采が上がり、与党の議員のヤジは一層激しくなった。
今国会の目玉は内閣総理大臣芦屋寛造の『紅葉を見る会』に関連する問題の追及だ。国費でまかなわれているこの会を総理が私物化し、本来功績があった国民が呼ばれるはずが、自分の支持者を招待していた疑いが持たれている。しかも、その中には反社会勢力の者が混ざっていたり、前夜祭を開き高級ホテルに格安で宿泊していたりと疑惑のオンパレードだ。
他にも、芦屋夫妻と面識があった人物にただ同然で国有地が売却された疑いや、贈収賄や失言、そしてパワハラやセクハラで辞任した大臣が十人を超えるなど、政権が何度倒れてもおかしくない状況だ。にも関わらず、芦屋政権は六〇%近い支持率を維持し続け、八年に及ぶ長期政権になっていた。
しかし、さすがにこのところジワジワ下がり、最近は四〇%前後まで落ちて、逆に不支持率が五〇%近くになっている。
いい加減に不正だらけの政権を終わらせなければ野党の存在意味がない。この八年で日本の立憲主義がかなり揺らいでいる。その原因の一つは、一喜たち野党がだらしないからだ。
現芦屋政権が誕生する前の四年間は野党連合が政権を担っていた。しかし、官僚支配からの脱却を目指したものの失敗し、それまでの政権との差が無くなってしまった。また、政権担当時に東日本大震災が起ったのも不運だったのかもしれない。
結果的には官僚の支配は終わりを告げ、政府主導による政治が行われている。ただし、それは野党連合が目指したものではない。芦屋政権は官僚の人事権を握ることで、彼らを支配した。官僚たちは我が身を守るために政府の顔色を覗い、国民のためではなく政権のために働いている。
『腐敗』、芦屋政権ほどこの言葉が似合う政権はないだろう。
なのに、まだ支持率が高い……
「セキュリティはですね、万全で、わたくちの安全は守られていまちた。それにですね、立憲党が政権を担当ちていたときも、『紅葉を見る会』は開かれていたわけで……」
やっと芦屋が答弁に立ったが、いつも通り論点をずらし中身のないことを宣い続けている。それを苦々しく見つめながら、一喜は永田町に流れるある噂について思いを巡らせた。
野党連合が政権を取っていた一〇年ほど前より、民自党の支援団体で勢力を増している組織がある。『日本求道会』という宗教法人で、彼らの働きがあるからこそ民自党は支持率を維持できていたというのだ。しかも、超常的な手段によって。
一笑に付して構わない内容に思えるが、永田町にはそれを本気で信じている人間が多く、一喜もその中に含まれる。もちろんそれを公に話す議員はいないし、求道会もほとんど表には出てこない。
一ヶ月ほど前、芦屋と求道会会長代理の弓削朋美が料亭で密会している写真を、週刊誌が掲載した。当然記事に、支持率が高いのは求道会に原因があるという内容は書かれていない。会食をしただけで費用も折半だったと政府は直ぐさま反論したが、一喜はまったく信じていなかった。
昨年、求道会は会長弓削泰介が他界し、後継者問題が起っている。泰介の実子であり会長代理の朋美と、副会長佐伯仏眼の各派閥の勢力が拮抗しており、一年近くたった現在も新たな会長を選出できないのだ。
付け加えておくと、副会長の仏眼は一喜の叔父でもある。もっとも、親しい間柄ではない、寧ろ関係は最悪と言っていいだろう。一つ確かなのは、彼には非常に強力な異能があるということだ。だからこそ一喜は噂を信じていた。
弓削親子にも異能が有ったのではないか、だからこそ泰介が亡くなり民自の支持率も下がり始めたとも考えられる。
ここで叩き潰しておかないと、日本が壊されちまう。
一喜の所属する社会見廻り組は結党されて一年ほどしか経っていない、彼自身も議員一年生だ。社会的弱者に寄り添おうとしている党首に共感し、彼も議員になった。それに仏眼の影響もある。以前から求道会に入信したことは知っていたが、ある事件を切掛にして、一喜の不安は高まっていた。
彼の最大の目標は求道会を政治から切り離すことだ。
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