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クルーズ船『大日』・階段
朱理達は階段を駆け上がっていた。
遙香が派手に穴を開けたため、エレベーターはどんな影響があるか判らないので使用するのをやめた。階段を駆け上がる振動で折れた奥歯や殴られた腹部が少し痛むが、構ってはいられない。慧眼に憑依した法眼が応急処置を施してくれたので、大分楽にはなっている。
船の中に居る信者達は遙香に完全に操られているのか、誰も朱理達を止めなかった。
「姉さん、急いで!」
先頭を政宗が駆け上がり、それを梵天丸と紫織が追っている。朱理は刹那の様子を見つつ上がっていた。
「あ、あたしは体育会系じゃないのよ……」
息を切らせながらよろよろと階段を登る。隣で座敷童子が励ますように寄り添っていた。
「姉さん、ザッキーを変身させて、抱いて行ってもらえば?」
「さすがに、そんなことに使えない……」
確かにそんな姿を遙香に見られたら、何を言われるか判らない。
「まぁ、ゆっくり行きなさい。遙香も悠輝も、それに仏眼だって何処にも行きはしない」
慧眼は一番後から悠然と階段を上がってくる。どう考えてもこの中で一番体力があり、素早く動けるはずだ。敢て後から来るのは、登場する際の演出を考えているのだろう。
残念だが、朱理にそんな心の余裕はない。姉と祖父達を置いて階段を駆け上がることにした。
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