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クルーズ船『大日』・廊下
刹那はクルーズ船の廊下を梵天丸と政宗、そして護法童子を追いかけて走っていた。いや、正確には追いかけているわけではない、単に身体能力が彼らに付いて行けないだけだ。
だから、あたしは体育会系じゃないんだって……
目的地はクルーズ船の後部デッキ。遙香の指示で、斃し損ねた魔物が後方から船内に侵入するのを防ぐために向かっている。廊下には誰もいない、遙香が眠らせたからだろう。この後どうなるか判らないが、後は弓削空に任せるしかない。
刹那はようやく後方デッキに到着した。
「うわッ!」
眼の前にヒグマサイズの巨大鼠が落ちてきた。見ると首筋に護法童子の金剛杖が突き立っている。
「ザッキーッ?」
護法童子は、四肢の生えた鮫のような魔物をねじ伏せようとしていた。一方、梵天丸と政宗は身体が水でできた虎と戦っているが、相手が水なので噛みつこうが飛びかかろうがすり抜けてしまう。
あたしに出来ることは……
巨大鼠の姿が消滅し、金剛杖が高い音を立てて転がる。魔物は物理的な肉体を持ってはいない、そのため力尽きると消滅するのだ。そもそも魔物は常に実体があるわけではなく、人間に取憑くことが多い。実体化出来るのは妖力の強い魔物だけだ。
刹那は金剛杖を拾い上げた。
「ザッキー!」
投げた金剛杖を護法童子が受け取り、それで鮫の魔物を打ち据える。
少しはザッキーの役に立てたけど、ボンちゃんたちは……
相手は水の身体の虎、謂わば『水虎』だ。刹那がどうこうできる相手ではない。
果敢に梵天丸と政宗は飛びかかるものの、ダメージを与えられないどころか水虎の身体に捕らわれ溺れそうになっている。とうとう手摺りの場所まで追いつめられてしまった。海に落ちたら勝ち目はない。
その時、二匹の身体に変化が起った。梵天丸の身体は紅蓮の焔に包まれ、政宗の身体は紫電に輝く。
験力が強まっている!
生命の危機に瀕して潜在能力が開花したのだろうか。梵天丸の焔が触れると、水虎は身体の一部が蒸発し、苦痛の呻き声を上げた。その隙に政宗が水虎に突撃する。体内から紫電を浴びて、水虎は弾けた。
「やった!」
護法童子も四肢を生やした鮫に金剛杖を突き刺しとどめを刺している。
第一陣は凌いだと胸を撫で下ろした次の瞬間、背後から強大な力が打つかるのを感じた。
向こうはどうなってるの……
ここからでは悠輝達の姿は見えない。
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