クロ

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「目が覚めたら真っ白でも、僕、自分のスケッチブックに絵を描きます。こうして触って確認しながら頭の中のスケッチブックにお姉さんの笑っている顔を書きます」  私は男の子の手を握った。 「クロも触る?」 「はい。クロ、クロ」  男の子は顔をくしゃくしゃにして笑った。泣くのを我慢しているようだった。私は泣いてもいいんですよと言った。男の子の目から涙が溢れた。クロは男の子の顔をペロリと舐めた。ラブラドルレトリバーだから訓練すれば盲導犬になるかもしれない。クロもこの子と一緒なら幸せだろう。  それから1年後、クロは訓練されて立派な盲導犬になった。私は男の子のお姉さんになったつもりで仕事を頑張った。彼氏も出来る。職場で知り合った精神科医だ。結婚式に男の子を呼ぶと顔を触って「お姉さん、真っ白な服着てるの?」と訊いてきた。私はウエディングドレスを触らせてあげる。すると「スケッチブックみたいだね。これから絵を描くんだね」と言って男の子は笑った。私は涙が溢れた。この子は結婚出来るのだろうか。いや、してほしい。病院の若い看護師さんを紹介してあげようか。色々なことを考えていると、男の子は「頭に絵を描いたよ。僕の目の前は何時も真っ白なスケッチブックなんだ」と言って私の顔を触った。 「綺麗な花嫁さんだ」 クロが男の子に寄り添った。  終わり
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