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はじまりのいろ
ボロ雑巾のように捨てられた。
あんなにも一緒に居たのに。
突然、なんの未練もなく君は私の元を去った。
伸ばした手は届かなかった。
縋り付くことはしなかった。
ただ呆然とコレは現実なのだろうかと立ち竦んだ。
単に飽きたのか、嫉妬だったのか、それとも最後の優しさだったのか。
「あなたと僕は違うから」
(ただ隣で笑ってくれるだけでよかった)
共に過ごした日々がまるで走馬灯のように脳裏を巡った。
どんな時も一緒だったのにね。
君に伝えない言葉など何もなかった。
君は私の全てを共有していた。
君が私を支えてくれて、私が君を支えているのだと思っていた。
いっしょに笑っていっしょに泣いて、いっしょに喜んでくれたあの日々は一体何だったのだろう。
去り際に君がくれたのは別人のような言葉のナイフ。
終わりが来るなんて考えた事もなかった。
私は泣いて泣いて泣き疲れて眠った。
目が覚めると窓の外は白銀の世界に変わっていた。
真っ白な世界を見て私は思った。
――――ああ、終わりではないのかもしれない。
コレは始まりなのだ。
真っ白なキャンバスを手に入れた子供のように気がつけば私はわくわくしていた。
私は『絶望』ではなく『自由』を手に入れた事に気づいたのだ。
私は私の為に私の好きな絵を描こう。
私の好きな色を塗ろう。
この白は私の為だけにあるのだ。
今日は季節外れの雪景色。
私の世界が真っ白にリセットされたあの日の事を思い出す。
君がくれた言葉のナイフは最後の優しさだったのかもしれない。
君が私をボロ雑巾のように捨ててくれなかったら私はまだあの小さな部屋で君の帰りを待っていただろう。
あの時君がくれた真っ白なキャンバスに、私が私の為だけに描いた景色は、絵に留まらず私の世界となった。
私は小さな部屋を飛び出して広い大地を駆け回った。
私の前に咲き誇る色とりどりの花たち。
どこまでも広がる青空。自由に流れる白い雲。
なんと美しいのだろう。
ああ、春を知らせる鳥が飛んでいる。
――もうすぐ春が来る。
『はじまりのいろ』end
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