異世界への招待

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 自宅と会社を往復するだけの日々。こんな生活の唯一の救いは、帰る頃にスーパーに駆け込むとぽつんと置かれている3割引きの弁当くらいなものだ。  そんな日々に嫌気が差して、休日くらいはどこかに出かけようかと考えるのだけれど結局は寝て終わってしまう。ごみ溜めみたいな部屋の中、しなければならないことなんていくらでも目につくのに、何もする気は起きなくて。  何か一つ行動すれば、とたんにすべてが動き始めるように思うのだけれど、気持ちも体もちっとも動いてくれないのだ。  ほこりの溜まったフローリング、公共料金の支払い、何かを出してフタが開いたままの収納ケース。それらの全てがいまの自分を責め立てるようだ。    小林歩向歩向(あゆむ)は大学院を修了してからの7年間、いくつかの会社を転々とし、いまの会社は勤めて3年になる。  その日も「やりがい」だけが支払われる残業を終えて、家路についていた。 「お前からはガッツが感じられないんだよね。かじりついてでもいい仕事をしてやろうっていう気負いがさ。    この仕事ができるなんて誰にでもできることではないんだよ。前にも中途半端なことしかできなくて別の部署に飛ばされたやつもいたけど、お前もこのままじゃいつそうなってもおかしくないんだからな。  もっと死ぬ気で頑張れよ」  いつの間にか2人きりになったオフィスからの帰り際、一緒になった先輩社員から言われた言葉がぐるぐると頭の中をよぎる。あの後も先輩は、電車の中でできることなど具体的なアドバイスを話してくれた。  電車の中、歩向は吊り革に掴まりながら言われた通りいくつかの資料に目を通していた。しかし目が文字を上滑りするだけで頭にはこれっぽちも入ってきてくれない。歩向はそんな自分に絶望した。  歳近い同僚は目を輝かせながら働いているのに、何故自分にはできないのだろうか。耐えられず携帯を取り出しSNSを手癖のようにのぞいてみれば、ほかの誰かの楽しそうな日常がこぼれだしてくる。
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