得体のしれない者

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「こっちだ!」 司は、母屋の方へ入らず納屋の方へ私を連れて行き、納屋の中にある何台かの農機具を素早く見ると、その中でも比較的大きな農機具の後ろへ隠れる。 私は、内臓が口から全て出てしまうのではないかと思う程の荒い呼吸を押さえるのに必死だった。 暫くして、庭に敷き詰めてある砂利を踏む音が聞こえてきた。走ってはいない。ゆっくりと歩いている音だ。 緊張と恐怖、疲れの為未だ荒い呼吸を落ち着かせることが出来ない私は、薄手の上着を脱ぎ、口に当てた。呼吸音もこの静寂の中では、アイツに聞こえてしまうのではないかと思ったのだ。 ソレを見た司は、私の背中を優しく抱いてくれる。そのお陰かようやく落ち着いてきた時 「来た」 司が小声で私の耳元で言った。 見ると、あの真っ黒な人間が母屋に向かって歩いているのが見えた。もう懐中電灯は回していなく、腕をだらんと下げているのだろう光は地面をユラユラと照らしている。 母屋から漏れる明かりに照らし出されたソイツは、異様な奴だった。 全身真っ黒なのだが、体全体が何かモヤモヤした渦が巻いてるような感じ・・・漆黒の中何かがうごめいているような・・・髪や目、口、鼻、耳などはない。ただの真っ黒な人型。 私達が母屋に入ったと思ったのだろう、ソイツはカラカラと玄関を開け中に入って行った。 (すり抜けられないんだ) こんな時なのに私はそう思った。 「あいつらどうなったんだ?まさかアイツに・・・電話してみよう」 司は携帯を取り出しユウに電話を掛けるが、耳元で呼び出し音が聞こえるだけで、出る気配はない。 私も由美子の携帯にかけてみたが同じ結果だった。
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