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「そんな事が・・・」
細川の最後を聞いていなかった由美子はそれ以上言葉が出ないようだ。誰でも驚くだろう。影の子供達が寄ってたかって、細川を沼に沈めてしまったなどと言う話を誰がすんなりと聞き入れるだろうか。
そんな中母親は何やら考えていたが、スッと立ち上がると
「そのおじさんの所に案内して頂戴」
「え?何で?」
「まだ終わってないからよ」
母親の言葉が気になったが、険しい表情の母親にはそれ以上聞くことが出来ず、黙って老人の家に案内した。
他の三人も何も話さず黙ってついてくる。
老人の家が見えてきた。早朝の清々しい空気の中、こんな事じゃなければ気持ちよく散歩できそうなものだが、今の全員の気持ちの中はどんよりとした黒い渦が巻いている事だろう。
「失礼します」
私は、家に上がり込み物が散らかる廊下を歩きながら声を掛ける。
老人は、最初に会った時の様に蝋燭を前にじっと座っていた。
「突然失礼します。私は徳子の娘です」
母は簡単に自己紹介すると、それを聞いた老人はハッとしたように顔を上げ母を見る。
「この度は、娘がご迷惑おかけしまして申し訳ありません。すべて娘から話は聞きました。余計なお世話かも知れませんが、今日で終わりにした方がいいのではないでしょうか。母もそれを望んでいると思います」
「?」
私達は、母が何を言っているのかさっぱりわからなかった。
「母が、亡くなる前日の夜。全て話してくれました。あの日も綺麗な満月の夜でした。その月を見ながら母は・・・」
(今まで私が何回言っても駄目だった。あの事を知っているのはもう私だけ。私がいなくなった後、健ちゃんが考え直してきちんとした形で終わりにしてくれるといいんだけど・・・)
「・・と、「あの事」という事もすべて聞きました。その様子だとあちらの方もまだきちんと納めていないようですね。母は、最後の最後まで気にしていました。・・・もう終わりにしましょう」
最後は諭すようにゆっくりと言った。
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