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その時、脳裏に過去の記憶が一部だけノイズ混じりなのは変わらないが目の前にいる人だけはどうにか思い出し、面影と照らし合わせながらこう答えた。
「もしかして…先生ですか?学校の…」
そう言ったら、嬉しそうな笑みを浮かべて過去にやっていた仕草を彼に見せた。
その姿と彼の記憶に残る面影が重なった。
「懐かしいね…30年前か…早いものだな」と細かく年数を口にして懐かしそうに染々と感じていながらふと、彼らの目的を聞いてきた。
「そう言えば、影鬱餓に戻ってきたんだ?」
そう聞かれて、洋輔はここに来た経緯を教えた。
ここに影鬱餓村には都会にある学校に比べて小さいがそういうものが備わっている大きな村だ。
だが、ここでは中学校や高校はないためそこまで成長したら必然的に引っ越しをして子供が中学校卒業したら両親はこの村に戻ってくるのが習わしだった。
そうなると、子供は高校から独り暮らしになる。
そうすると、成人してここに戻ってくるのはほんの数人程度、だけどここまで大きな村はなかなかないだろう。
そして、洋輔の家族がここに来たのは彼の祖父が手紙で亡くなったことを知りそれで急遽彼らの夏休みを利用してやってきた。
唯一そこに住んでるのは彼の母と姉の二人だけだった。
女性と年老いた母だけだと何かと不便だと思ったのだろう。
そして、父親は……。
全て話終えたら、彼は「ご愁傷さま」や「お疲れさま」とか返ってきた。
「そうだ!後で野菜持っててやるよ!帰ってきたんだし」
「いやーいいですよ…」と謙虚に遠慮していたけど、先生と言われた彼は食い下がってきた。
「いいんだよ!私がそうしたいんだから」
そう言ってから彼は話を無理矢理切らせ畑仕事に出ようとしていた。
どうやら、彼にとって既に決定事項なのだろう。
「それじゃあ期待せずに待ちますよ」と生意気承諾したら、先生は腰にくくりつけていたタオルを取り高く持ち上げてヒラヒラさせて「おう」という返事を送った。
一部始終見ていた三人は話がついていけなかった。
「かなり明るい人なんですね」と母が素朴な感想を言うけど、後ろにいる霧蠹が文句言った。
「ボク達のこと見えていませんでしたね」
そう言うと洋輔は苦笑いを浮かばせてから「仕方ないよ、車のモデルのせいで君らの姿はちゃんと真横からじゃないと」と見れないことを話したら影蠹はつまらなそうに舌打ちをしてこう言った。
「いつまでもここにいねぇでさっさと行こうぜ…」
「そうだね、お母さんと姉さんが首を長くして待っているかもしれないな」と自分の右手首についてる腕時計を見て、かなり長話をしていたことを証明していた。
それで静かにアクセルを踏んで、砂利道を静かに走らせた。
道中、走ってるなかで影蠹はなんの変哲もない田圃や畑が沢山あってその奥に広大な森が広がっていた。
(これだけ広いとカブトムシとか捕れそうだな)と予想を呟いていたとき不意に開けてるところが現れそこに神社のようなものが見えた。
だが、それを見て驚いたんじゃない。
彼が驚いたのは、弟と同じ慎重ぐらいの茶色い着物を着た少女が見えたからだ。
それで思わず「えっ!」と声を漏らしてしまった。
それに気づいたのは隣で何か書いてる霧蠹だった。
「どうかしたのですか?」って問いかけていて、彼はどう答えようかと思って躊躇って思わずこんなことを聞いてしまった。
「なぁ、あそこにあるのって神社か?」
その答えをくれたのはやはり父の洋輔だった。
「あれは影鬼神社って言うんだ」
初めて聞くワードに霧蠹と母が食いついた。
「神社って神様が祀る建物ですよね。なんで鬼なんですか?」
そう聞かれて、彼は思い出す限りにそこの説明をした。
「“影鬼”っていうのはここの妖怪のようなものだったかな。彼のおかげでここはいつも豊かなんだ。それでその神社を管理してるのが家なんだ」
とても“善い妖怪”として語れていたけど、霧蠹はそれだけじゃ納得してくれなかった。
「本で読んだんだけど、鬼っていうのは悪いやつではないのですか?」
至極全うな意見なのだが、次の父の答えに無理矢理納得させてしまった。
「いや、昔厄災があってね。その厄災を納めたのがその鬼なんだ。どんな厄災だったのか知らないけど…」
そう言われて霧蠹はそれ以上追及してこなかった。
でも、霧蠹と話を聞いていた影蠹は疑惑しか湧いてこなかった。
それで影蠹は通りすぎた神社をもう一度見たら既にその少女は姿を消していた。
自分が見たものははたして真実だったのか、まだ分からないままに…
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