第30話 精霊魔法

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第30話 精霊魔法

「ど、どういうつもりよ貴方!」 「うん?」 「キュ~?」  キングが屋台とその他諸々の弁償金を立て替えた形だが、店主が立ち去った後、エルフの少女が訝しげな目を向けて詰問してきた。  キングとボールは彼女に体を向け、短く発し反応するが。 「ど、どうせなにか魂胆があってのことでしょう? あ! さては私がエルフだから、か、体が目的なのね!」 「はっはっは」 「キュ~……」  エルフの少女が自らの身体を抱きしめるようにし、体を捩らせる。それを見たキングは軽く笑い、ボールはどこか呆れたような反応を見せたわけだが。 「さて、掃除を始めるか」 「キュ~」 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」  キングはエルフの少女に関してはそれ以上何も触れず、本来の仕事に取り掛かろうとした。だが少女は眉を怒らせて引き止める。 「何かな?」 「何かなじゃないわよ! 目的をいいなさいと言ってるのよ! 人間がエルフ相手に何の見返りもなくそんなことするわけないじゃない!」  どうやらエルフの少女はキングの好意を穿った目で見ていたようだ。確かにエルフは見目麗しく、闇では高く取引されるようなこともある。  だが当然キングにそんな思惑はない。困っていた彼女を見過ごせなかっただけなのだ。 「さっきも言ったがただのお節介でやったことだ。どうしても納得できないと言うなら余裕のある時にでもちょっとずつ返してくれればいい」 「は? え? ほ、本気なの? 本気で何もなく、立て替えたって言うの?」 「うむ、そうだな……敢えて言うなら食堂で見かけたのも大きいかもしれないな」 「食堂?」  少女が小首を傾げる。少女がパーティーメンバーと言い争っている時、キングも近くにいたのだが、当然知る由もないのである。 「うむ、そこで聞こえてきたのだ。パーティーから追放されたのだろう?」 「な、ち、違うわよ!」    キングが問うとエルフの少女はそれをムキになって否定した。 「あれは追放されたんじゃなくて、私が出ていったのよ! あんなパーティー私にはふさわしくないわ!」 「そうだったか。それは済まなかった」 「だ、だいたい、それとこれと何が関係あるのよ!」 「いや、恥ずかしい話だが私も追放された経験があってな。それで自分と重なってしまったのかもしれない」 「え? 貴方も(・・・)、追放?」  つい少女は自分も追放されたことを示唆するような言葉を吐露してしまったが、キングはそれに触れず。 「君がギルドに今回のことを言われたくなかったのもそういったことが絡んでいるのではないかと思ってな。そういうわけだから、自分勝手な解釈もあっての話だ、気にしなくていい」  そう言って締めた。そのまま作業に移ろうとするが。 「ま、待ちなさい!」 「うん? まだ何かあったかな?」 「そ、その、その、あ、あ、あ……」 「あ?」 「キュ~?」 「あ、貴方には感謝してあげてもいいわ!」  キングを呼び止めた少女はうつむき加減に何かを言おうとしていたが、プイッとそっぽを向きお礼のようなそうでないような台詞を口にした。 「はは、まぁ役に立てたなら良かったよ」    素直ではない少女の態度に苦笑するキングだが、感謝している気持ちはあるようだと知り逆に微笑ましくも思っているようである。 「ところで、貴方も冒険者ってことでいいのよね?」 「うん? あぁそのとおりだ。広場の掃除が本来の依頼でね。丁度人も減ったし、これから始めるところだ」 「だったら、その、私も、て、手伝ってあげてもいいわよ!」  またプイッとそっぽを向きそんな台詞を吐く少女である。ただ、キングの好意に何かお返ししたい気持ちはあるようだが。 「そうか、ならお願いしてもいいかな?」 「し、仕方ないわね!」  中々素直ではない少女だが、キングはその気持ちを汲み取って手伝いをお願いした。 「ゴミを片付けるのね。貴方どうするつもりなの?」 「うむ、箒で先ずはゴミを集めて行くつもりだが」 「甘いわ! そんなやり方じゃ時間がかかるだけよ!」  ビシッと指を突きつけエルフの少女が告げてきた。キングとしては他にどんな方法があるのか? といったところであるが。 「何かいい方法が?」 「勿論、こういうときこそ魔法よ! まぁ見てなさい。風の精霊よ来なさい! シルフウィンドロール!」  シルフは風の下位精霊である。精霊には格付けがあり、下位、中位、上位の三種類が存在する。先程この子が男に向けて行使していたサラマンダーは火の下位精霊でもある。  そして今彼女が精霊に命じて発動した魔法。本来なら風の精霊の力を借りて小さな竜巻を発生させるのだが……。 ――ゴオォオオォオォオオオオ!  嵐の如き暴風が発生し、思わずキングも肩に乗ってるボールをしっかり押さえ両足を踏ん張らせた。しばらくすると風が止むも、まさに嵐の過ぎ去った後の如く、広場はめちゃくちゃになっていた。 「……えっと、あ、あの――」 「は、はは。ま、まぁそんなに手間は変わらんさ」 「キュ~…………」  キングはこう言うが、普通なら切れてもおかしくないほどの惨状である。ボールも残念なものを見たあとのような鳴き声だ。 「も、勿論片付けも手伝うわよ! 安心しなさい!」 「そうか……その、次はとりあえず魔法無しでいいかな?」 「う、うぅ、わ、わかったわよ……」  結局エルフの少女も一緒に箒と手で地道に掃除をしゴミを屋台の残骸がある場所に集め終えたのだった。 「ふぅ、終わったな」 「はぁ、はぁ、こうやってみると、ここ、結構広いわね」 「はは、女の子には少し大変だったかな」 「キュ~」 「ば、馬鹿にしないで、な、慣れの問題よ!」  確かにこういった仕事にキングは慣れている。一応は彼女も手伝ってくれたが結局は殆どキングの手で片付けられた。 「でもこのゴミどうするの?」 「そこはボールが協力してくれる」 「ボールってそのスライム? というか私の知ってるスライムと何か雰囲気が違うんだけど……」 「キュッ?」  疑問を投げかけるエルフ少女だがボールも自分以外のスライムとの違いはあまりよくわかっていないようだ。 「頼むぞボール」 「キュー!」  そしてキングがボールに呼びかけると、張り切った様子でポンポンっと跳ねていき、固まったゴミの山に登った。  かと思えばボールの体が膨張しあっという間にごみの山を呑み込んでしまう。 「は、はぁ!?」  その光景に絶句するエルフの少女なのだった。
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