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第32話 キング注目を浴びる
「さて、ギルドに行くか」
「キュッキュッ~♪」
「何か時間がかかったけど、でもいいことをした後は何か気持ちよいわね!」
「うむ、そうであるな」
「キュ~」
お婆ちゃんを送り届けたのもあって日は既にだいぶ西に傾いていた。ウィンは清々しい顔をしているが、もし魔法をお婆ちゃんに掛けていたら大惨事となっていたことだろう。
それはそれとして、ギルドに戻ってきたキング達。中に入るなり、受付嬢や冒険者の視線が一斉に集まった。
「ねぇ、何か注目されていない?」
「キュ~?」
「ふむ、なんだろうな? 何か問題を起こしたつもりもないのだが」
「わ、私だって何もしてないわよ!」
「いや、別に疑ってはいないが……」
焦った顔で否定するウィンにキングは頬を掻きつつ答えた。だが、こういった弁解が出てくる当たり、何か心当たりはあるのかもしれない。
「キングさん! 良かった、戻るのを待っていたんですよ!」
ダーテが声を上げ、キングが彼女を見て目を丸くさせ、自分を指差した。何が何だからわからない。
「ぬ? 俺をかな?」
「あんた……一体何をしたのよ?」
「いや、別になにかしたわけでもないと思うのだが……」
「キュ~……」
しかし明らかにキング達が戻ってから注目が集まってしまっている。そのうえでキングの名前を呼ばれたのだからなにかしでかしてしまったか? と心配になるのも無理はないが。
「お手柄ですよキングさん! 本当に驚きました」
「む? お手柄?」
するとダーテがキングの下へ駆け寄ってきて、驚き半分嬉しさ半分といった様相で語りかけてきた。それでもキングには何のことがわからないが。
「グルーブシックラットの駆除、違法に動物を販売していた店の摘発、そして広場で人質を取られての爆弾騒ぎを解決、これら全てキングさんがやったことですよね?」
「あぁ! それなのね! て、人質の爆弾はわかるけど、他二つも凄いし、大活躍じゃない」
「う、うむ結果的にそうなってしまったのだが、まさか知られているとは思わなかった」
「当然ですよ。それだけのことをしたのですから、直接衛兵の纏め役である伍長がやってきて話してくれたのです。大変感謝してましたよ。領主から感謝状が出ると思うとも話してました」
「なんと、そこまでか……」
キングとしては仕事のついでに起きたトラブルを解決したに過ぎなかった為、そこまで評価されるとは思っていなかった。とは言え、ネズミの件一つとっても、放っておけば街全体に病が蔓延した可能性がある。そう考えてみればこの評価は妥当とも言えた。
そしてキングの活躍は話を聞いていた冒険者の間にも知れ渡ることとなり、今注目されているのも冒険者から冒険者へと口伝てに話が広まったのも大きいのだろう。
「へ、へぇ、キングってば凄いのね」
「まぁ、たまたまではあるのだがな」
「キュッキュ~♪」
とは言え、肩に乗ってるボールもキングが評価されることは嬉しいようでありポンポンっと跳ねてキングを讃えている。
「本当に凄いです、と、そういえば、その、どうしてウィンがキングさんと一緒に?」
キングの活躍を自分のことのように喜ぶダーテであったが、ふとその視線がエルフの美少女ウィンに向けられた。
「うむ、少々縁があってね」
「え、縁? 縁ってなんですか!?」
「ん? いや、実は……」
キングの発言に食い気味に問い返してくる、というより詰問するみたいに顔を近づけてくるダーデであり、その気迫に少々戸惑うキングであったが、とりあえずこれまでの経緯を話して聞かせた。
「……なるほど話はわかりました。ウィン貴方、また魔法を暴発させたのですね」
「あはは、あ、じゃあキング私そろそろ行くね」
「ん? もう行くのか? しかし、まだ何もしてないような?」
「いや、ちょっと用事を思い出したから……」
「待ちなさい!」
突如バツが悪そうな顔を見せ、ギルドを立ち去ろうとしたウィンであったがダーテに肩を掴まれ。
「貴方には色々と話しを聞く必要がありますね。依頼を失敗した件もありますし、ちょっと来てください」
「そ、そんな、べ、別に私は何も悪いことしてないわよ!」
「その自覚の無さが問題なんです! キングさんごめんなさい。本当は私が対応したいのだけど」
「いや、構わないさ」
「構いなさいよ! 私がピンチよ!」
「はは……ま、まぁこればっかりわな……」
「キュ~……」
「さぁ来なさい! それと、レナ、手が空いているならキングさんの報告を聞いてあげて。後報酬の支払いもお願いね」
「はい、わかりました~」
結局ウィンは、ひ~ん、と泣き言を漏らしながらも引きずられるようにしてダーテに連れて行かれ席につかされた。
キングに関してはレナが担当してくれることとなり、彼女に依頼完了の報告をする。
「はい。勿論この依頼に関しては問題なしです。後はキングさんが解決した件の追加報酬となりますが、ところでグルーブシックラットの数がわかると嬉しいのですが、何かありますか?」
「あぁ、念の為確保はしておいた。ボールの中にあるのだが、数はかなり多いと思うのだが」
「あ、それなら解体室まで来てもらっていいですか?」
「承知した」
そして解体室まで行き、そこで解体担当の職人と挨拶を躱す。
「前に納品された物もキングの解体だったんだってな。どうりで綺麗だと思ったぜ」
「あぁ、そう言ってもらえると嬉しいものだ。ただグルーブシックラットは素材としては価値がないから解体はしていないが」
「あぁこっちも数が知りたいだけだからな。そのまま出してくれて構わないぞ」
「ならば、ボール」
「キュ~!」
そしてボールが解体室にグルーブシックラットの死骸を出していきあっという間に山積みとなった。ちなみにこれはキングがボウリングの技を利用して駆除した際に同時にボールが回収していたものである。
「話には聞いていたが、本当に凄いスライムだな……魔法の鞄なんか目じゃないぐらいの収納量だしな」
魔法の鞄は魔法の道具の一つであり、魔法の力で鞄の中身を擬似的に広げ収納量を増やしている鞄のことである。
だが、一般的には50kgから100kg程度の物が出回る程度である。勿論それ以上入る物がまったくないというわけではないが、そのクラスになると高すぎて一般人では手が出せない。
「しかしこいつは千匹はいるな。よくこんなに一人で駆除したな……」
「凄いですねぇ。でもこれだけのグルーブシックラットがもし野放しになったままだったら、そう思うと怖いですね」
グルーブシックラットは数が多ければ多いほど病原菌はより広がるし、タチが悪くなる。しかもこのタイプのモンスターはすぐに数が増えるので後少し遅ければその数は万を超えたかもしれない。
「役に立てたなら良かった」
「キュ~」
「立ったなんてものじゃないですよ! 町を救ったと言っても過言ではないと思います」
レナが興奮気味に答えた。キングとしてはそこまでとは思っていないが……とにかく討伐したモンスターの確認をしてもらい再びキングは受付に戻るのだった――
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