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「前がよく見えないな……」
ハイビームにしてみると、雪に光が乱反射し、かえって視界が狭まってしまう。
目をこらすと、暗い道をフラフラと歩いている女がいる。
柳司の高校の生徒のようだ。
……確か、A組の。佐伯有紗といっただろうか。
ビニール傘を両手で差している。
細い体は頼りなく、強風にあおられて飛んでしまいそうだ。
地元の子は、こんな吹雪にも慣れているのだろうか。
柳司は、ハザードランプをつけ車を停め、ウィンドウを下げて、声をかけた。
「佐伯。大丈夫か」
「先生。ラッキー」
有紗は甲高い声を出すと、へらへらと笑いながら、柳司の車に乗り込んできた。
「いやあ、凍死しそうだったよ。先生が来て助かっちゃった」
制服の上に黒いコートをはおり、赤いタータンチェックのマフラーを巻いている。
足のほうはほとんどまるだしで、ハイソックスにブーツをはいているきりだ。
「家、どこだ? 送るから」
仕方なく柳司が言うと、
「しばらくまっすぐ行って、信号を左」
と答える。
有紗は雪で濡れた長い髪をかきわけて、車に積んであった柳司のブランケットを、太ももに巻き付けた。
有紗の指示通り、角を曲がる。どんどん田舎道になっていく。
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