6人が本棚に入れています
本棚に追加
有紗は収納ボックスを開け、CDを漁りだした。
「へえ、先生、洋楽とか聴くんだ? すかしてるう」
勝手にプレイヤーにCDをセットする。
せつなげな歌姫の声が、大音量で車内に響く。
あきれて有紗の横顔を見ると、首を上下に降って小さくリズムに乗っている。
「先生。バックバック。行き過ぎた。そこのコヤブ商店を、右だから」
有紗に言われて、車を停めた。
「コヤブ商店」は古臭い小さな店だった。
とっくに廃業になっているのだろう。
さびれた看板の文字は、かすれて読めない。
店の駐車場に入れさせてもらって、Uターンさせようとした。
「あれ? おかしいな」
柳司はあせってアクセルを踏みこんだ。
ブウンとタイヤが空回りする音がする。
ギアをRにしたりDにしたり、あちこちいじってみるが動かない。
……雪だまりの中に突っ込んで、スタックしてしまったのだ。
柳司は青ざめて、車外に出た。
「あはは、センセ間抜け。大丈夫かよ?」
有紗が笑いながら、外に出てくる。
傘で車の周りの雪をならしてみた。雪は、水っぽくて重たい。
スコップを積んでおかなかったことが悔やまれる。
最初のコメントを投稿しよう!