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「ええ、勿論ですよ。日本では“バケモノが出た”なんてそうそうニュースになることもないですが。それは、我々のような組織が秘密裏に回収し、正しく管理しているがゆえ表に出ないだけなのです。妖怪と呼ばれる古来から存在するものに加えて、政府や企業が生体実験により生み出して野に放ってしまったものまで非常に様々取り揃えております。きっと、本間様にもご満足頂けると思いますよ」
「そう?じゃあ、期待しちゃおうかしら」
館内には、私以外に人はいなかった。見物客もそうだが、広さのわりには案内人さえ彼以外に見当たらない。そしてどこか薄暗く、真っ赤なカーペットとクリーム色の壁がてらてらと照明に照らされている。それがかえって不気味さを演出し、私は心臓が高鳴るのを抑えきれずにいた。
「この館内にいるものは、お客様を除けば全て“バケモノ”と呼ばれるものです。人として生きることが叶わぬ哀れなバケモノ、そもそも生き物としての定義に当てはまるかもわからぬバケモノ、その種類は非常に様々ですね。例えば……」
彼が最初に指し示してくれたのは、廊下を曲がって最初に入った展示室、その一番手前のガラスケースに入ったものだった。
ガラスケースの大きさは、女の私でも両手でなら抱えられる程度の大きさのダンボール大、とでも言えばいいだろうか。真四角のそれを最初見た時、私はそれが“何”なのか判断をしかねた。何故ならガラスケースにはみっちりと――何らかの肉の塊が詰まっていたのだから。
ぬらぬらと赤い液体に塗れ、あちこち血管を浮き上がらせたそれは、こうして見ている間にもどくどくと脈打っている。まるで四角く区切られてしまった大きな心臓を見ているかのよう。そう思って覗き込めば、視線を感じたのか肉の塊はもぞり、と動き出した。
「!」
そしてもぞもぞと寝返りでも打つように蠢いた後、肉の中に埋没していたモノを露出させたのである。それは、小さな手、だった。赤ん坊くらいの、実にか弱そうな腕が肉の中に一本埋もれていたのである。ガラスケースの内側で、非常に狭苦しそうにぎちぎちと蠢く腕。もしやこれは本当に“赤ん坊”なのではないか、と思ってしまい、私はついつい想像を滾らせてしまう。
なんといっても、私も女だ。今そういう相手はいないが、自分の腹に新しい命を宿す未来を想像したことがないわけではない存在である。もし己が産んだ子供がこのような怪物であったならどうか。きっと悲鳴を上げて――頬ずりすることだろう。愛しくて愛しくてたまらないに決まっている。
「“なりそこない”。我々はそう呼ばせていただいております」
そんな私のギラついた眼に気づいてか気づかぬか、彼は解説プレートを指差しながら説明してくれる。
「“あるべきものになれなかったもの”。とでも言えばいいのでしょうか。困ったことに、特定の場所に封じ込めを行わないと、無限に体積を増してしまう性質を持ち合わせておりまして」
「あ、だからガラスケースいっぱいに詰まってるのね?」
「その通り。このサイズにとどめておくのが丁度いいのです。本人はとても狭いので、時々ノイズのような声で“出してくれ”“広い場所に行きたい”とゴネてくるのですけどね。とはいえ餌をやる必要もないので、蓋を開けてやる理由もないわけですが」
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