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バケモノ博覧会
「ようこそいらっしゃいました、本間様。わたくし、こちらの管理人である東雲と申します」
そう言って恭しく礼をしたのは、ぴっちりとした黒いスーツを着込んだ青年だった。艶々とした長い黒髪を後ろにひとまとめにし、にっこりと微笑む様は美青年と言えなくもない。少々前髪が長すぎて眉毛が完全に隠れてしまっているのが難点だが、すらりとした身長といい正直私好みの外見に違いなかった。
といっても、私はあくまでここに“見学客”として来ただけで、管理人を品定めしに来たわけではない。精々、こんなイケメンがいるならもう少しチークと口紅を選んでくるべきだった、と思う程度だ。
「え、ええ……こんにちは東雲さん。あの、此処には古今東西のバケモノが展示されているって聞いたんだけど、本当なの?」
気を取り直そう。なんのために、渋滞にイラつきながらこんな山奥の施設までやってきたと思っているのか。ホームページに展示されていた“凄まじい”写真の数々が本物であるのか、ホラー専門の雑誌記者として確かめに来たからだ。
元々人の話を訊いたり、未知の宝を捜すような作業は好きだったが。その中でもマイナーなオカルト雑誌の記者を仕事に選んだのは、他でもない私自身がそういう“黒い”ものに強く惹かれる質であったからに他ならない。子供の頃から、グロが満載のホラー映画を見ても全く泣かない少女だった。むしろ興味津々で画面に釘付けになるので、周囲からは少々気味悪く思われたほどである。
別に、自分で人を殺してやりたいとか、そういう危険思想を持っていたわけではない。ただ、目の前で起こる“主人公にはどうしようもない惨劇”を安全圏から眺めることに、普通の生活をしていてはけして見ることの叶わぬおぞましい殺人鬼や臓物、怪物の姿にたまらなく興奮したというだけである。ホラーが好きな人間全てがそこまでのレベルだとは思わないが、誰だって少なからず“怖いもの見たさ”はあるのではなかろうか。自分は少し、その気持ちが人より強いというだけだ。別に取り立てておかしいことなど何もないだろう。
――そうよ、何も人を殺して自分で臓物を確認してやりたいわけでもないんだから。サイコパスでもなんでもないでしょ。
心持ち、スーツの襟を直したりしながら、目の前の案内人を見つめる。見れば見るほど、東雲はいい男だ。年下好みの私にとってはかなりたまらない“一品”である。
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