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 コンビニに売っている<三種の具材どっさりおにぎり>と<デカハム玉子サンド>は、亜香音の好物だ。さらににおやつを買い足しすると、八百円くらいだろうか。  小銭を全部かき集めればその金額には届く。  亜香音はカピバラのイラストがプリントされたがま口ポーチに硬貨を入れた。 「あ、お姉ちゃん・・・おはよ」  部屋をいっしょにしている妹の桃香(ももか)が、もぞもぞしながら半身を起こした。 「きょう、遠足だよねえ。いいなあ。おみやげ、買ってきてね」  桃香は小学二年生。低学年の遠足は学校の近所に限られるという決まりがあって、先日、狭山湖丘陵の植物公園に行ってきたばかりであった。桃香にしてみれば、遠方まで足を延ばせる上級生の遠足は恨めしくてしかたがなかったのだ。 「うん」  亜香音は返事をしたものの、気持ちは沈んでいた。  八百円あれば、自分のお昼代くらいはなんとかなるが、土産(みやげ)代をさらにねん出するにはきつい。  でも、妹はきっと楽しみにしているに違いない。  三種のおにぎり一個だけなら、残りの五百円くらいで何か買えるだろう。亜香音自身はそれでもよかったが、問題は、せっかくの遠足なのに・・・  クラスメートたちは、きっと、華やかな特性弁当を持参してくる。お昼はお互いに見せ合いながら食べることになるだろう。みんなに混ざってコンビニのおにぎり一個をモソモソ食べるなんて、どれほどみすぼらしいことか。学校の給食なら出されるメニューはみな同じだし、クラスメートたちとの会話もそれなりに楽しめるのだが・・・  亜香音の母親はすぐに暴力をふるうし罵声を浴びせるが、昔は優しくて、イベントがある度にいなり寿司を作ってくれたものだ。油揚げを甘辛く煮込み、米は固めに焚き上げ、そうすると酢が程よい加減になじんでおいしい寿司めしになるのだという。  ずっと遠い記憶の中だった。  亜香音は知らず知らずのうちに、バスに揺られながら目を閉じていた。    
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