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「君、大丈夫か」  自分を揺さぶる男の声で意識を取り戻し、蓮花は目を開けた。  途端、真っ白な光で視界が覆われ、瞼を開けていられなくなった。肌を刺す光の暖かさが、とても懐かしいものに感じられた。  手のひらをかざして影を作りながら、おそるおそる目を開ければ、陽光が差し込んでいた。灰色の雲を切り裂くようにして、雪降らしが空を飛んでいる。散らされた雲は白く染まり、そして地上へと舞い落ちてくる――真雪だ。四年ぶりに降る真雪だった。  空高く飛び上がり、灰雲を散らした雪降らしが、蓮花を見下げるように顔を動かした。真白の空と妖魔を見上げながら、その美しさに、蓮花は言葉を失う。両翼に赤黒い穴が開き、傷だらけであっても、空を飛ぶ雪降らしの姿は、果敢で、そして美しかった。  男に助けられながら身体を起こす。その様子を見届けると、雪降らしは玉を鳴らすような声で鳴き、遠くの空へと飛び去って行った。また年が過ぎれば帰ってくる――そんな予感がした。  雲を散らし、空を飛んで行く雪降らしを見つめながら、蓮花は微笑んだ。  母が讃えていたのがよくわかる、美しい姿だった。 * * *  ――その後、余暉は、蓮花に、花梨への疑いは濡れ衣だったことを伝えた。  恐らく、花梨が雪降らしから杭を抜いたのだろう。花梨に杭を抜いてもらった記憶があるからこそ、雪降らしは蓮花に身を預けたのだ。蓮花から話を聞いた余暉はそう考え、蓮花も賛同した。  雪降らしが空へ飛んでいったことが、蓮花の何かを変えたかのように、余暉は感じていた。あの日から、蓮花はよく笑うようになった。  しばらくして、蓮花は隣里にもう一度行くと言い始めた。  今度は送ろうかと尋ね、手を差し出すと、蓮花は笑って首を横に振った。  送ってくれるのは嬉しいけれど、手を繋ぐのはもう恥ずかしい、と彼女は言い、それはそうだな、と余暉も笑った。
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