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 無言で見ていたかと思うと、やおら青年の頭を掴みにかかる。易々とすり抜けるが構わず腕を沈ませた。 「わあ!?きみ躊躇無いね!」  驚く暗闇から無造作に腕を抜けば、青年は酩酊したようにふらついた後、人の姿が崩れ、床に闇がわだかまるだけになった。 「ああ……もう、やることが凄いんだから……頭のなか引っかきまわされた気分だよ。頭無いけど」  暗闇は何度か震えると、気の抜けた笑い声をたてる。 「おかげでダイレクトに伝わったけどねぇ。君、言語を使えるなら、意思は言葉で伝えた方がいいよ」  死神は闇を見下ろしたまま答えない。  ほらそうやってすぐ黙る、と文句を言いながら、暗闇がのろのろと起き上がる。 「用は済んだな。帰れ」 「うん……君はおしゃべりしたくないみたいだし、帰るよ」  壁際まで移動すると、ソファーの影へ流れ込むように体積を減らしていく。 「あ!そういえば」  もう少しで消えるところで、急に伸び上がった。 「あの子、気になってる人をやっと誘えたんだよ!すごく緊張してたから、伝わってるか心配だけど。それってやっぱりデートかな?」 「煩い。帰れ」 「えー。……はいはい。またね」  最後の言葉に引っ掛かり見遣ったが、暗闇は消えている。  それを確認すると、死神は深く息を吐いてソファーに沈んだ。  腕を入れた際にいくらか感情を喰われたのか、今は落ち着いている。
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