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苛ついている自覚はある。
だからといって行動に表しているつもりは無い。
可愛がった彼が理性を蕩けさせ気を失うのも、あの女が何かと騒いで煩わしいのも、いつもの事だ。
自覚。
苛立ちに気が付いたのは、あの暗闇が来てからだ。
放っておけばいくらでも喋るあの異形は、識っている筈の事が解らなくなっていることや気付いていないことに敏感だ。否応なしに我が身にも知らされる。
執務に戻り、この世から離れれば制約からは解放されるが、死神がそれよりも優先するのは小さな宙の事だ。
まだ自分の護りかたも知らない子に、あの異形の興味を向けさせたくは無い。
宙の傍に移り、柔らかな髪から頬を撫でる。
初めて己を見たとき、笑顔を向けた幼子。
それから、ただの仕事場だったこの世が色をもった。いくら眺めても飽きず、頬がゆるむのも仕方がない。
もうじき夜明けだ。
暗闇がおとなしくなり、死神も居心地が悪くなる時間が来る。
忌々しげに、斜向かいの部屋の方を見る。
呪われ者同士、じかに話せばいいのだ。
何故か反応しない二人を会わせる術を考えながら、死神は姿を消した。
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