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椅子の上であぐらをかいて、刃は退屈していた。
玄関から続く廊下の突き当たり右手の少し奥。板壁に不自然に囲われた空間の、開かないドアの前の椅子。
壁の向こうは階下へ続く階段だ。
しかし、一人で居るといつも都合よくかかっていた声は、今日も無い。
いくら居座ったところで物音ひとつしない。
「ガッコの休みっていつだよ」
ため息まじりの独り言も何回目になるか。
ここは、1階に下宿するサトルと人目につきたくない彼女の、唯一の接点だ。
ドア一枚挟んで話す、声だけのやりとりはなかなか都合が良い。
しかしあの誘いがあってから、音信不通のまま一週間は経っている。
会ったところで、返せる答えは持っていないが。
手っ取り早くカタをつけようと、催眠薬や惑乱薬を作ろうとしたが材料の問題以前に、一服盛ろうとする相手は何も飲み食いしないことに気が付いてやめた。
前回と同じ手段で死神を利用するのは無理だ。
宙に言わせることも考えたが、仕込んでいる時点から筒抜けだ。
サトルに会うなら、今のサイズでは無理だ。
刃の頭にはそれしかなく、標準的な大きさになるには、今のところ死神の力を借りるしか考え付かない。
「どうしたもんか……」
無理なら無理なりに、サトルに返事をしなければと思うが、それも相手が居なければ始まらない。
諦めて椅子を降りようとした瞬間、廊下の角からなにか駆け込んできた。
「何してるの?」
宙に見つかった。
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