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「お前に興味を持ったものが、手を出してきただけの事だ」
「星野さん……が?」
「あれだけでは無い。何にせよ」
お前は誰にもやるものか。腰を抱き、かすめるようなキスと共に耳へ注がれた囁きに、エリックはたちまち顔が赤くなり痺れたように力が入らなくなる。
子供達に見られやしないかと心配するが、丁度こちらに背を向けて夢中で絵を描いている。
「……閣下」
「どうした。可愛らしく嫉妬などしているかと思ったが」
「違います……」
消え入りそうな声で、それだけ言うのがやっとだ。
嫉妬など誰に。まさか宙に?構われないからとそんな。構ってもらえないのは、それは寂しいけれど。
毛先を玩ばれながら言葉は続かず、火照りが落ち着いてからやっと声を出せた。
「貴方は全てをご存知なのに、僕は知らない事が多すぎます」
「拗ねるな」
喉で笑われ、むくれる。死神当人はそれが可愛らしくてたまらないのだが、だからといってとびつく性格ではない。
黄泉で見つけた命を閉じ込めて造った青年は、放っておけば理の通りに黄泉へ戻る。
だが己が触れてさえいれば、この世に繋ぎ止められるのだ。人ならぬ2人には、時間ならばいくらでもある。焦ることも無い。
エリックにその自覚が無いままエスカレートした接触は、もう『接触』のレベルを越えた深さだが。
「教えてください。貴方が御存知の、図書館と、……星野さんの事を」
答えるのは簡単だ。だが宙の居る場では憚られ、二つの呪いが発する制限もあって、何もかもとはいかない。
煩わしいが、夜色の瞳に見詰められれば、それさえ愉しいものだ。
「ここでは話してやれん。夜ならば、……存分に」
言外の意味がたっぷり含まれた主の視線に、エリックはまた返す言葉をなくした。
そして、夜には刃のことも忘れていた。
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