まつ毛に積もる雪

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 須藤先生は僕の憧れだ。背が高くて、がっしりした体格に形のいい首筋をしている。受け持っているのは国語で、僕の机の横を小説を読みながら通り過ぎる時、プンっといい匂いがする。香水じゃなくてセーターの柔軟剤みたいな匂いだ。須藤先生は僕の気持ちに気が付いていないみたいで、中田先生と噂がある。中田先生は綺麗な24歳の女の先生だ。女なんか何処がいいのだろうと疑問に思うが一般的には男と女が恋に落ちるのが普通らしい。  僕は今、高校2年生だ。思春期を迎えて恋をしたことのない奴は何人くらいいるんだろう。幼稚園から高校まで、好きな人が出来たことのない人なんか珍しいんじゃないかと思う。僕は女の子を好きになったことは無いが、須藤先生のことは恋をしていると言っても過言でないくらい好きだ。  須藤先生は今年25歳になるらしい。以前、2年生にあがって直ぐの日、生まれ故郷の話をしたときに、育ったのは千葉県だと聞いた。ここは都内なので、そう遠くもないが、生まれ育ったところから都内へ出て来たのは何か訳があるんじゃないかと考える。  今は12月の25日、クリスマスだ。今日が終業式、明日からは冬休みになる。大晦日にお正月、須藤先生と過ごしたいと思うのは間違っているのだろうか。 「俊哉、明日から休みだぞ。冬休みの宿題、きちんとやれよ」  教室を出たところで須藤先生に背中を叩かれる。 「先生、お正月って何してます?」 「あ、ああ、正月か、多分、寝て過ごすよ、ハハハ」 「実家には帰らないんですか?」 「何だ、急に、実家は3日に帰るけど日帰りだ。そうだなあ、1人で成田山新勝寺でも行って来るか。俊哉の分もお参りして来てあげるよ。いい大学に行けるようにってな」 「まだ、1年ばかり、ありますよ」  僕は苦笑した。須藤先生は合わせたように笑って廊下に掛けられた絵を見た。
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