怪我

2/6
前へ
/29ページ
次へ
 常に危険と隣り合わせ、冷静に周りの状況を見極め行動する。一つのミスが生死につながることもあるからだ。  金色頭で長身の男である瀬尾(せお)は新参者だ。  ゆえに兄貴分の指示を仰ぎ、慎重に行動することを心掛けていたのだが、抗争の際に兄貴分の一人を庇い怪我を負ってしまった。  だが、この怪我は許されるものではなかった。零以外がつけた傷と痕だから。  瀬尾は許しを乞うために病院を抜け出して零の元へと向かった。  住処は数か所あり、それを知っているのは側近の一人、瀬尾の兄貴分である有働だ。  居場所を聞き出すとタクシーに乗りこみ、館の一つへと向かい、到着すると真っすぐに零の部屋へ。  入室の許可を得て部屋の中へとはいると、書斎机でパソコンをしている零の姿がある。 「先程は申し訳ありませんでした」  腕を後ろで組み、深々と頭を下げて待つ。  すると視線に綺麗な黒い革靴が見え、瀬尾の顎を硬い何かが押し上げた。  その時、目に飛び込んできたのは零の冷たい目だった。  美しい。はじめて出会った時もあの目に心を奪われたのだ。  うっとりとしかけたところに、零が手にしていた鞭のグリップエンドで傷口を抉りはじめた。  真っ白な包帯が血で赤く染まっていく。痛みに声をあげそうになるが必死でこらえた。 「……申し訳ありませんっ」 「お前に痕をつけていいのは俺だけだと、散々、その身体にに教えてやったはずだがな。俺を失望させるな」  そう言うと零は傷口からをグリップエンド離し、今度はボディで打ちつけてきた。 「ぐはっ」  血が包帯からしみだしてポタポタと床に落ち、高価な絨毯に瀬尾の血がしみこんで広がっていく。  零の部屋を汚してしまった。急いでシャツで血をふき取るが、汚れがひどくなるだけだった。  革靴がその手を踏みつけた。 「余計なことをするな。下がれ」 「はい」  立ち上がり頭を下げる。血を失っているせいか意識が朦朧としている。  ふらつく足でどうにかドアまでたどりつくと零の部屋を出た。  一歩。また一歩。  足を引きずる様に歩き、その途中で瀬尾の意識が途切れた。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

170人が本棚に入れています
本棚に追加