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助けてもらった御礼をしたいという香月を連れて零の元へと行く。
「零、助けてくれてありがとうございました」
「礼にはおよばない」
助けるのは当然だと香月の髪に触れて口づける。
「零に色々と助けてもらって俺はお礼を返せていないのに、一つお願いがあるんだ」
と零へと近寄りその耳元に何かを囁いた。
なんだかすごく嫌な予感がする。
こちらを見る零の表情が何かを企むような楽しそうなものとなり、
「香月がお前が欲しいからよこせと言っているが」
口角をあげる零に有働は参ったなと渋い表情へとなる。
よくよく思い出せば、抜きあう行為はしても深くつながりあう姿は見たことがない。
「零様、ご存じだったのですね」
香月が誰に想いを寄せているかを。
「それで、お前は香月が欲しいか?」
一度きりの選択に、いつもの有働なら、即、いらないと答えていただろう。
『それでも俺は引かない』
その香月の言葉が耳に残り、有働の心をかき乱す。
零の性格を知っていて、それでも有働を求めるなんて。
香月の方へ視線を向ければ、静かに成り行きを見守っていた。結果がどうなろうが受け止める覚悟ができているのだろう。随分と男らしい。
「はぁ。とんでもない奴に惚れられちゃいましたかね」
「あれを堅気にしておくのは惜しい」
そう二人で笑っていると、
「ちょっとっ! で、有働、返事は」
香月が間に割り込んできた。
「零様、香月を頂戴できますか?」
と香月の手を握りしめた。
その言葉に香月が表情を明るくする。それを見て零が口角を上げて、
「互いをどれだけ想っているのか見せてみろ」
という。その言葉の意味に気づき、苦笑いを浮かべる。
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