怪我

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 瀬尾は幼き頃からまっとうに暮らしてはいなかった。  アル中の父親に水商売をしていた母親。親の愛情はなく、暴力と罵声の中で生きていた。  だが、それも十二歳の時に終わりを告げた。  母親は駆け落ちをし、父親は借金をしてやくざに追われどこかへ消えた。  残された瀬尾に居場所などなく、街をふらふらとさまよっていた。  次第に悪い奴らとつるむようになり、喧嘩に明け暮れる日々だったが、十五歳になり一人の男と知り合った。彼はゲイバーのマスターで、名前は恵子と名乗っていた。  明るくて優しい人だった。赤の他人に暖かな場所と食事を提供し、親の代わりに愛情を与えてくれたのだ。  悪い奴らから手を切り、彼女に恩返しをすることが瀬尾の生き方となったのだが、恵子はガンに侵され瀬尾が二十歳になると死んでしまった。  もっとそばにいてほしかった。恵子を失い、心にぽっかりと大きな穴が開いてしまった。瀬尾は生きている意味を見失ってしまったのだ。  あの時のように街を彷徨って。たどり着いた先は薄暗い路地のごみ箱の近く。  そこに座り込んだまま虚ろな目をして座り込む。このまま人目に触れることなく朽ち果てることができればと願う。  だがそれは叶えられることなく打ち砕かれることになる。
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