怪我

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 急にあたりが騒がしくなり、ひとりの男が目の前に倒れこんだ。  それを取り囲む、三人の男。そして離れた場所にもう一人。 「やれ」  と声が聞こえる。 「助けてくれ……」  丸くなりガタガタと震える男。  その距離をじりじりと縮める三人の男。  目の前で起きていることをぼんやりと眺めていれば、 「オイ、お前」  頭上から聞こえて視線を向ければ、美丈夫の目がこちらをまっすに見ていた。  なんと強い目をしているのだろう。まるで獅子のように自分は王だといわんばかりだ。  畏怖。  生きることをあきらめたというのに、自分はそんなものを感じていた。  身動きもせずにただ見つめる瀬尾に、 「生きているのか」  と、言葉を投げてよこす。  低く色気のある声をしている。  全身に鳥肌が立ち、瀬尾は両腕をこすった。 「おい、ゴミ」  綺麗に磨かれた皮の靴がおもいきり腹に食い込む。 「ぐはっ」  遠慮のないその蹴りに腹を押さえてうずくまる。  髪を鷲掴みされ顔を引き上げらて、すぐ近くには凍り付きそうなくらい冷えた目がある。  今、眠りから覚めたかのように意識がはっきりとした。 「なんだ、生きているのか。名は?」 「瀬尾(せお)篤郎(とくろう)……」 「有働(うどう)、こいつを綺麗にして連れてこい」 「はい」  有働と呼ばれた男は瀬尾と同じくらいの上背で、鋭い目つきをした男だ。  立てと言われ、のろのろと立ち上がる。  その時、冷たい目をした男へと視線を向ける。それは、絶望の後に見つけた光だった。
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