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※※※
意識が浮上し、ベッドから身を起こす。
すると身体じゅうに痛みが走り、その個所を手で押さえる。
痛いけれど動ける。ベッドから降りようとすると、
「絶対安静だよ」
髪の長い、綺麗な男が立ち上がって寝るようにと身体をベッドに押し戻す。
その時、さらさらと髪が流れ落ちて、とてもいい匂いがした。
「え、あ、どうしてここに」
零の部屋にいたはずなのに、いつの間にかここに寝かされたようだ。
「意識が飛んでいるようだね。まぁ、無理もないか」
瀬尾は零と兄貴分以外の人にあまり興味がない。だが、仕事上、顔を覚える必要があり、彼が誰だかを思いだす。
「あ……、バーのマスター」
名は香月(かげつ)だったか。零のお気に入りの店で、たまに連れて行ってもらうのだが美味い酒をだしてくれる。
「はは、あれは趣味だっていったよね。僕の本業はお医者さん。病院から抜け出して心配したんだよ」
あの病院は香月が務めているところだったのか。心配をかけてしまったことを素直に謝る。
「後でおじいちゃんに謝っておいてね。それにしても零ってば、怪我人を痛めつけるってどういう趣味なんだか」
「零様は悪くありません。俺が傷を勝手に作ってきたのがわるいんです」
殴られて当然だというと、香月がため息をついた。
「瀬尾君はマゾなのかな」
「……そんなことはありません」
流石にそういう趣味は持ち合わせてはいない。
「はぁ、どれだけ忠犬なんだか」
寝ている場合ではない。まだ許しをもらっていないのだから。
起き上がろうとすると、香月にダメと言われてしまう。
「これは零からの伝言。『三日間部屋を出るな』だって。本当は一週間は安静にしていないとダメなんだけどね」
「わかりました」
顔を見たくないほどに怒っているのか。落ち込む瀬尾に、香月が頭をなでた。
「零なりに心配しているんだよ、瀬尾君を」
零に心配をしてもらうなんておこがましいことだ。
はやく役に立てるように身体を休ませることに集中しよう。
「マスター、あ、先生、でしたね。ご面倒をおかけしました」
「うんん。ゆっくり休んで」
香月が部屋を出ると薬を飲みベッドに横になった。
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