出会い

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出会い

 門を出て街路路に出ると車は一台も通っていなかった。道の所々が踏み固められ汚れで茶色になっている。歩くのは楽になったけれど、次は滑るのに注意しないとならない。  大通りに出ると人がちらほらいたが、街並みがいつもと違う。家はレンガ造りで、レンガの温かみのある色と屋根の濃い緑が目に付く。他の家も壁はペンキで雑に塗られた白色で表面がザラザラし、屋根は黒色だ。均等が取れていない見覚えのある街の景色はどこかに消えてしまった。しばらく歩いたが案の定、いつも使っている駅は見当たらない。駅があるであろう方向を意味もなく見つめたが、そこには大きな松の木が光っていないイルミネーションを巻かれて佇んでいた。途方に暮れた末、ぼくは職場の方向に歩いた。  街のあちこちに電飾やクリスマスの飾り付けがしてあり、店の看板は綿毛やキラキラと光る装飾が施されてる。クリスマスを祝っている街を歩いていると自分まで気分が浮かれてきた。昨日の沈んだ気持ちも少しずつ日が差し込むように晴れてくる。少し歩くと雪がパラパラと降ってきた。歩いているお陰で寒さは感じずむしろ体は温まっている。細かな優しい雪が顔に触れるたびに微笑みが顔から溢れ嬉しくなってきた。空から注いでいる陽の光が降っている雪を照らし、積もっている屋根や街路の雪が光を反射させる。街全体がまるで宝石を散りばめたように輝いていた。ぼくは数カ月ぶりに心から笑ったような気がした。 会社のことも忘れ、クリスマスの街をひたすらに歩いた。素敵な景色を細部まで全て見たかった。道の一つ一つ、装飾の一つ一つを余すとこなく観察したかった。自分が街のどこにいるかもわからなくなった時、すれ違いざまに背丈が同じくらいの灰色のニットを被った青年とぶつかった。辺りを見回すのに夢中になっていたぼくは体が当たるまで気がつかなかった。ぶつかったお詫びをすぐにすると、彼は満面の笑みで謝り返してきた。 「そんなに珍しいかい?」辺りをキョロキョロ見回してるぼくに彼は興味深そうに聞いてきた。 「え、すごいですよ。こんなに綺麗な街を見るのは初めてです。装飾された看板や玄関、電飾を巻かれたツリー、どれをとっても心を打ちます」 「そこまで言われると、なんだかオレまで嬉しくなってくるな。この街は毎年こうやって祝ってるんだぜ。きみはこれから予定でもあるのかい? 今からクリスマスマーケットに行くんだ。きみもどう?」 「クリスマスマーケットやっているんですか? ぼく行ったことないんですよ!特にこれから予定も無いです。ぜひ一緒に行ってもいいですか? 初めて行くので、楽しみです!」会社のことなんてすでに忘れていたぼくは、思ってもみなかった誘いに二つ返事で承諾した。 「そうこなくっちゃ! クリスマスマーケットに行ったことないってのは珍しいな。まぁとりあえず向かおう! そういや、オレはマックスだ。よろしくな」 「ぼくはマキシムって言うんだ。マックス、よろしくね」差し出された手を握りしめ挨拶を交わした。雪の降りしきる季節なのにも関わらず手袋をしてない彼の手は正午の陽のように暖かかった。
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